「空き家ビフォーアフター」で改修の様子をお届けしてきた物件がギャラリー付き住宅として完成し、2024年7月にオープンしました。
では、以下この改修のプロセスについてお届けしていきます。
「Kyoto Dig Home Project」のトップページにある空き家ビフォーアフター、画像と一言だけではなく、もっと詳しく知りたいと思いませんか?
ここは、トップページでビフォー・アフター、そしてプロセスを画像で紹介した事例を掘り下げていく特設ページです。京都市内にある空き家物件を購入し、自ら活用している大家さんにお話を聞いていきます。
INDEX
市場価値は高くない。だけど、面白いと思う箇所がある物件を購入する
—自己紹介をお願いできますか?
普段は大阪で会社員と建築系のカメラマンをしています。
個人的な趣味として、市場価値は高くないけれども、面白いと思う箇所がある物件を購入し、自ら手を入れることで自分なりの「価値づけ」をして、新たに貸し出すということをしています。
—なぜそんなことを?
大阪に購入した家の1階を、レンタルギャラリーとして地域に開いたことが始まりです。
スタートした2012年は、個人の作家さんやブランドが作品を発表したりポップアップショップを行うことが増えてきた時期です。こうしたトレンドもあり、ギャラリーを使っていただく機会が増えてきたので近所で新たな物件を探すようになり、そこから徒歩数十秒のところにあったボロボロの空き家を購入して改装。試しにテナント募集を行ったところ、カフェに入っていただくことになりました。
そこからは毎年1軒、近所の気になる空き家を購入して改装するプロジェクトを行ってきました。
店舗をつくることが多いのですが、空き家の多い路地の物件に灯りがつくと、近くにお店が増えたり、路地に安心感ができたり。その先にはこのまちに住む人、遊びに来る人の流れなども変わったりするんです。
ちょっとだけそのまちに介入することになるので、自分が好きなエリア・住みたいエリアを中心に考えています。
またそれとは別の話で、日本では時間の経過とともに不動産の価値がどんどん下がるため、古い建物を壊し更地にして、新たな建物をつくることが多いです。京都や大阪で生活していると、近所にあった古くて素敵な建物が、よくある外観の味気ない新築マンションに変わっていく様子を日常的に目にします。
そのエリアの個性が壊されて、どのまちでも見るような画一的な建物に上塗りされていくことに違和感があり、個人的に残したいと思う物件を購入して改装するようになりました。
—これまでにどんな事例を手がけられましたか?
大正七年に建てられた清水焼の工房跡地を、残置物が残っている状態で買い取り、信頼する設計・施工者とともにリノベーションしました。現在、古道具などを扱う「oud.」という店舗になっていて、そこの大家もしています。
—お住まいも勤務先も大阪なのに、なぜ京都なんですか?
もともと京都の大学に通っていたんですが、そのときはボロボロの長屋に住んでいました。そこも拙いながら自分で改修をして住んでいたので、それが原風景になっているような気がします。
また、京都は都市の便利さと触れ合える自然の距離が近いので、今後の暮らし方の中で両者のバランスが心地よいエリアだと感じています。
物件を購入するときは、だいたい3つの活用アイデアを考える
—ならではの物件の探し方はあるのですか?
物件を購入するときは、だいたい3つくらいの使用しているイメージが思いつくかを基準にしています。こんな使い方もおもしろそう!と空想を楽しめるかを大切に考え、物件を選びます。
oud.の場合は、1棟貸しの別荘、陶器や古道具のお店、アーティスト向けの工房付き住居という3つのアイデア。
今回の物件であれば、アーティストが制作・展示をしながら1ヶ月単位で住むことができる場所、鴨川で食べたり飲んだりするためのテイクアウトのお店と住居、あとここはちょっとずるいのですが自分でも京都の拠点として住んでみたい。という3つを思い描いていました。
そのあとはきちんと具体的な数字等と向き合って、何ができるか、どこまでなら許容できるか落とし込んでいきます。
—今回の物件はどのように探したのでしょうか?
一般的な不動産のサイトで鴨川の近くにある物件を見つけました。便利ながら古い町並みも残っているエリアだったので面白いなと思っていました。
不動産屋さんの写真は内観ばかりで鴨川のことは記載していなかったのですが、位置から考えると、家の中から鴨川の桜と比叡山が見えるのではと思い内覧に行きました。
傷んでいる箇所も多くいろいろと問題はありそうでしたが、窓から見える景色に惹かれて2022年の夏に購入することにしました。
—この物件はいつ頃建てられたものですか?
築年数不詳なんです。ただ、内覧のときに、増築部分と思しき箇所があったり、洋風にリフォームされていたり、何段階か経ているなと感じました。
いざ解体に着手すると、入り口から通り庭が続き、その南隣に居室がならぶ、いわゆる京都の町家形式になっていることがわかりました。天井を剥がした上の壁面に煤がついているので、昔はおくどさんでごはんを作っていたことも建物に痕跡として残っています。改修の際には、そういう箇所をなるべく活かすようにしています。
空き家をギャラリー付き住宅にリノベーション
—どのような利用方法を考えていたんですか?
2022年9月に、洋風に改装されていた箇所を解体し、半スケルトン状態にしてから使いたい人がいないかと、信頼する不動産屋さんを経由して賃貸の募集をかけました。
壊しすぎたりつくりすぎたりすると、貸主・借主ともに無駄な手間や費用がかかるのでできるだけ素の状態から募集することが多いです。
「こんなリフォームするなら未改修での状態で、安く出会いたかった」っていう経験ないですかね。今回は水回りや耐震補強の費用は大家支給として、つくっていけたらと思っていました。
何件か内覧はあったのですが、店舗や事務所の建築が認められていない第一種低層住居専用地域なので制限があり、条件付きで認められている住みながらの店舗になると、居住部分の整備に費用がかさみ、改装費との折り合いがなかなか難しく成約にはいたらなかったんです。
—その後どうしたんですか?
いつもでしたら借主さんがイメージしやすく、いろんな用途に使えるような汎用性が高い改装から徐々におこなっていきます。でも今回は自分の拠点にしたいという思いもあったので、最初からいつもよりも踏み込んで改装を行うことにしました。
—工事はいつスタートしたんですか?
2023年5月に工事がスタートしました。それにあたり設計・施工ができる方と最初は月に3日くらい、一緒に物件の解体作業をしながらイメージを固めていきました。
2023年10月頃から本腰を入れて工事を進めるようにしました。自分でざっくりとしたイメージ図をつくって、設計者さんと相談しながら進めていきました。ただ、予算は潤沢ではなかったので、躯体の補強や補修を中心に、まず空間として成立するように調整していきました。
躯体の補強の際には、京都の北山杉を使った「みやこ杣木」や、解体のときに出た材を活用しています。みやこ杣木は、京都市内に所在する住宅又は店舗等で使用するときに補助制度もありますので利用しやすいと思います。
2024年3月末には完成予定なので、ちょうど1年間。時間はかかりましたが季節の移ろいを感じながら工事をすすめることで、色々な発見があり設計に活きてきたと思います。
「ビフォー」から「アフター」への意図
—個々のデザイン意図について教えていただけますか?
新しいエントランスを東側につくることで、鴨川側から直接建物に入ることができる導線をつくることで路地裏まで回らなくてもよく、外に開けた印象が生まれました。
それに伴い、新しいエントランスからゆったり入れるように既存建物の減築を行い、庭を広めに確保しています。
比叡山に向かって大きなガラス戸の開口部をつくり、そこからの景色が一番きれいに見えるように設計しています。そのため、路地の幅に合わせて、元々あった離れの建物を半分にカットしました。
また、東側の屋根の一部を光が通るポリカーボネートにすることで、朝日が差し込むようになっています。
母屋は傷みの激しい屋根と、レベル(高さ)が極端にバラバラだった床の2箇所を中心に整えて空間に締まりを出しています。天井は梁が見えるように天井高を上げて、下地材で使われることが多いラワン合板を、木目や色味をセレクトして仕上げ材として使用しました。壁面は既存の状態をなるべくそのままにして、この物件が経てきた時代の変遷が見えるようになっています。
細かく仕切られていた部屋をワンルームのような状態にして、そこから必要に応じてポリカーボネートや布などで空間のゆるやかな仕切りをつくっていくつもりです。
—古い建具もそのままになっていますね。
そうですね。窓やガラスブロックなど、特徴的な建具も含めて、そのままだったり少し手を入れたりして活用しているところもこの家の特徴になっています。洗面所の鏡は、近所にある銭湯でかつて使われていた物をフリーマーケットで購入しました。
庭を掘り返すと大量の石がでてきたので、それを新エントランスの石垣や庭のデザインに使用し、この物件の変遷の一端として活かしています。立派な手水鉢も埋まっていたのですが、とても重く、掘り起こして配置するのには一苦労しました。
空き家の価値とは
—空き家を活用する面白さとは?
「ここにしかない」「この時代にしか建てられない」と言った、ものがたりや語りシロのある建物をどう残していくかを考えること、また、これまであったものにあやかる感じがあるところです。いわゆる「ゼロからイチをつくる」のではなく、経過した時間や歴史をどう活かしていくのか、ということを考えられるところが、空き家、ひいては中古物件を活用する魅力です。それもあって、最近購入している物件はほとんど築100年超えのものばかりです。
実は、この物件の改修後の新しいエントランスにしている箇所は、さらに昔は長屋の共同便所があったようです。界隈に住む人たちが利用する、ある種パブリックな空間だったところを、ギャラリーという不特定多数の人たちに向けた入り口にするというのは、そういう歴史を紐とくような意味もあります。
自分自身、物件を購入するときはそうした来歴や物件の使われ方をよく調べるのですが、そうした発見を活用のヒントにすることは自分にとって魅力なんです。
—それは新築では実現できないことですね。
もちろん新築は新築でよさがあると思いますが、わたし個人としてはすでに世の中に必要十分の建物がある中で新たにつくるより既に存在しているものを、どうおもしろがるかの方に興味がありますね。
—今後の展望はありますか?
こうした事業を無理に拡大しようという思いはありません。
ですが、これは残したいと思った物件と出会えたときに、きちんと残せるように日々鍛錬していきたいです。