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京都でお得な掘り出し物件をどう探す?鴨川徒歩1分、家賃月7万円弱の空き家を店舗にした方法

暮らしや仕事にフィットする中古物件を見つけ出し、自分らしく活用する。京都市にはそんな方々がたくさんいます。今回は、そんな“空き家ディガー(掘り出し物件を見つけ出した方)”から物件探しのポイントや自分に合う物件の見極め方について教えていただきます。
今回、お話を伺ったのは、京都市左京区の路地裏にある築約70年の住宅を借り改装した店舗で「サルシッチャ!デリ」というソーセージ屋さんを営む鈴木直哉さん。店舗だけではなく自宅も500万円の中古物件を購入し、1階の床下をセラーにするなどDIYを進行中。そんな鈴木さんに、中古物件の見つけ方の極意を語っていただきました。

INDEX

「鴨川近く」「陽当たり良好」「改装可」
すべての条件が揃った物件との出会い方

——鴨川沿いの川端通から近衛通に入ってすぐの路地裏に、鈴木さんが営むお店「サルシッチャ!デリ」はあるんですね。鴨川に架かる荒神橋に近く、気持ちの良いエリアです。この場所でお店を始められたのは、いつからですか?

2018年からなので、7年前ですね。

——その前にもどこかでお店をしていたんですか?

2010年ごろに同じ名前で東京の中目黒に店を構えていたのですが、縁があって35歳のときに京都に引っ越してきました。実はその頃、体調を崩していたのですが、40歳のときにそれも改善してきたので、そろそろまた店をやろうかなと考えていたところ、たまたまこの物件を見つけたんです。

——このお店の物件を見つけたのは物件サイトですか? それとも不動産屋さんで紹介されたのですか?

いえ。ランニング中に、たまたま。

——え、ランニング中に……!?

はい。その日はランニングついでに不動産屋さんに行って、「お店をやりたいので、この辺でいい感じの物件があったら連絡してください」と言って連絡先を置いてこようかなと考えていたんです。
それでランニングをしていたら、「貸し物件」と書かれた看板がパッと見えて、「ここは良さそうだ」と思って。ランニング中で電話も持っていなかったので、看板に書いてあった不動産屋さんの連絡先の番号を口ずさみながら走って帰り、すぐ電話しました。

——すごい出会い方ですね。

京都に引っ越してきたときから、鴨川の近くで、家賃が安くて、好きなだけリフォームしてよくて、1階で陽当たりが良くて、ちょうどいい広さの物件があったら店をやろうかな、なんて甘いことを考えていたんですよ。で、この物件は路地裏だし、建物もかなり古いので、きっと家賃は安いだろうなと思ったんです。

——実際はどうでしたか?

鴨川から徒歩1分、延べ床面積約40平米で、家賃は約7万円です。安いでしょ? ただ、最初に不動産屋さんに電話したとき「あそこってお店やってもいいんですか?」って訊いたら、「あんなところでやるんですか?」と言われましたが。

——やはり物件探しのコツはまちに出向いて自分の目で探すことなんですね。

必ずしもそんなことはないです。僕は、ネットでの情報収集も、まち歩きも両方必要だと思っています。もしも今後、ちゃんと自分で物件を見つけて商売を始めたい人がいたら、きちんとネットも見ておくことをお勧めしたいです。

細い路地に面したお店は住宅と住宅の間にひっそりと佇んでいる。

生業として付き合っていく場所選び

——一般的には、お店を構えるなら路地裏よりも人通りのある通り沿いが好まれますよね?

ここの工事をお願いした大工さんにも「さすがに奥まってる」と言われましたし、飲食店のビジネスとして「アクセスが悪いんじゃないか」とご心配いただく気持ちもよくわかります。でも、僕は断固としてここが良かった。むしろ、この物件を見つけたときから、間違いなく、いろんなお客様から「すごく良い場所ですね」と言ってもらえる未来が想像できていました。
それに、うちはネット通販にも力を入れているので、立地による売上の心配はほとんどありませんでした。
逆に言うと、ここではフルで思いどおりにリノベーションできたので、キッチンを2つ構えて食肉販売業と飲食店営業の二店舗が入っている状態を実現することができたんです。

——なるほど。そういう事情もあったのですね。

あと、ビジネスというより生業として考えたときに、僕はこの店を続けなくてはいけないわけで、お店にいる時間が一番長いのは僕だから、僕にとって良いと思える場所でないと困る。快くロングランできる環境にしなくちゃいけないんですよ。
例えば、ここ以外のどんな物件に出会ったら「こっちにすれば良かった」って後悔するだろうか?と考えると、「鴨川に面している」ぐらいの条件しかない。でも、ここから鴨川は十分近いので、鴨川に面しているか面していないかぐらいしか、この物件に決めた時のデメリットはないんです。だから、ここ以上に惹かれる物件が今後見つけられる確率はゼロだと思ったんですよ。

——まさに一目惚れされたのですね。でも、心配なことはありませんでしたか?

見つけた瞬間から「ここはいける」と確信していましたが、ひとつだけ懸念があって、それは陽当たりの問題でした。陽当たりが悪いのは嫌だなと思っていたんですが、ここは路地内である上に長屋の真ん中なので大丈夫なんだろうか?と。でも、初めての内覧で、戸を開けた瞬間、天窓が開いていて光が差していたんです。足を踏み入れてほんのわずかな時間でしたが、唯一の懸念点がクリアされたので、その場で「借ります!」と言って決めました。

——元はどのような間取りだったのでしょう。

長屋ですからいわゆる「うなぎの寝床」で、土間があり、4畳半・3畳・4畳半の和室と小上がりという感じで、庭とお手洗いはあるけれどお風呂がない、という間取りでした。

——キッチンを2つつくられたということでしたが、改修にはどれぐらいの予算がかかりましたか?

だいたい470万円ぐらいですね。

——すごく安く感じますが、DIYもなさったんですか?

基本的にはすべてプロにお願いしました。いまは資材が高騰しているので470万円と聞くと安く感じるかもしれませんが、2018年当時だとそうでもなかったと思います。ただ、友人の内装屋さんにお願いしたので、現場に毎日通って、相談しながら抑えられそうなところは抑えていきました。
例えば角を丸くしておくとか、出っ張っている木材を切り落とす、といったように、大工さんとしては「ここまでやらなければならない」みたいな美学があると思うのですが、毎日現場に通う中で、僕の価値観としてはここまででいいんだ、という部分を度々伝えていました。
図面や仕様どおりに進めようと思っても、いざ作業するとなると現場判断で進行していくことも多々あると思うので、できる限り現場に足を運ぶことで自分の思い描いた空間を予算に収めながら作っていくことができたんだと思います。

レストランスペースのカウンター下は、本来上から仕上げを施すはずの下地用建材をそのまま使用。「当店は古い建物ですが、地震に強うございますよ」と言いながら備え付けのテーブルをはね上げると「地震に強い」の文字が。

自分にとっての「なるほど」を探る

——大事なことですね。鈴木さんは最初から中古物件を狙われていたと思うのですが、家賃の安さ以外に中古物件に感じている魅力はどんな点ですか?

僕はしっくりくるのが好きというか、「なるほど」って感じる瞬間が好きなんですよ。これとこれを入れ替えたら使いやすくなった、みたいなことを発見したときって「なるほど」と感じるじゃないですか。たとえばキッチンなら、メニューが変われば鍋を置く場所も変えたい。動きが変われば、ものを置く場所も変わってくるでしょう? アジャストしながら、自分がしっくりくる、なるほどと思えるようにスペースを変更していく。元々あるものに対する見方を変えて、試行錯誤を繰り返す中で自分の納得できる空間を実現していけるのが、中古物件の良さではないでしょうか。別に、新築をいじくり倒してもいいんですけど、中古物件だと心置きなく試せる気がしますよね。

本来は切り落とされるはずだった木材の出っ張り部分も、「出っ張っているという以外に切る理由がないなら残す」と言ってそのままに。その後、棚を支える役割を担った。

——この物件で、その「なるほど」を実感した場所はありますか?

この階段ですね。大工さんには「2階に住めるよ」と言われたのですが、住まいと職場を分けたかったのと、お店をやると物が増えることは経験済みだったので大きめのストレージとして使うことにしたんです。でも、どうやって上に登るかを決めていなくて。 ある日、親方が「ちょっと通路狭くなってもいい?」と言い出して、黙々と何かを作り始めたんですよ。そうやってできたのがこの階段でした。いわゆる階段箪笥のようなになっていて、手をかける場所もあって、登りやすい設計になっているんですよ。

「実際に物を持って上がったりするにはしっくりこなくて。いろいろ試して最初に足をかける場所を変えてみたところ、完璧になりました。」と鈴木さん。

——階段をつくると予算が跳ね上がりますが、高さや狭さをうまく活かしたアイデアですね。ちなみに、鈴木さんはご自宅も中古物件で、そちらは購入されたんですよね?

はい。そっちはバスも走る大通りに面していて再建築可なのに、500万円だったんですよ。

(後編につづく)

後編では、ご自宅として購入された中古物件をどのように見つけたのか、そして中古物件を選ぶうえで重要な見極め方について、引き続き鈴木さんに伺っていきます。

credit:

企画編集:光川貴浩・窪田令亜(合同会社バンクトゥ)

撮影:川嶋克

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