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【前編】そのリノベ、新築だったらどうだった?——リノベ、どうでした?

「新築がいいか?リノベーション(リノベ)がいいか?」結局は人それぞれという結論になりがちなこのテーマですが、今回はちょっと違う角度からみていきたいと思います。タイトルどおり「そのリノベ、新築だったらどうだった?」です。
 
すでにリノベされている物件を対象に、もし新築していたらどれくらいの費用がかかっていたのか?などをシミュレーションしてみます。
 
ご協力いただくのは、京都を拠点に、公共施設、店舗、住宅、そして新築、リノベ問わず多様なプロジェクトを手がける、赤熊宏紀建築設計事務所の赤熊さんです。2023年のイベント「KYOTO DIG HOME SUMMIT」にも参加いただき、Kyoto Dig Home Projectのスタートから関心を寄せてもらっていました。
 
今回見ていくのは、単に金額の多寡だけではありません。そもそも、いまリノベ物件が建っている敷地に新築する際に、同じ面積の建物を建てることはできません。また当然ながら、「つくり方」も変わります。赤熊さんが手がけられたご自宅を参考事例として、その敷地でのシミュレーションを考えてみましょう。
 
まず前編では、赤熊さんのご自宅がどんなリノベ物件なのか、そして赤熊さんがどんな建築家なのかについて、実際のスペックや金額をご紹介していきます。

INDEX

築114年以上の京町家との出会い

赤熊さんご夫妻の自邸が建つのは伏見区墨染。駅からも近く交通の便もよく、公園からも直接アクセスできる物件で、もとは、明治43年以前に建てられた築114年以上の京町家です。

かつては住まいながら塾も運営していたと思しき既存の建物は、雨漏りもあり、改装が繰り返され、町家らしさがほとんど残っていないため「京町家カルテ(京都市景観・まちづくりセンターが交付する、京町家の価値を「基礎情報」「文化情報」「建物情報」「間取図」 の構成でまとめた資料)」も取れない状態だったそう。

いざ解体してみると柱はところどころ腐食し、梁はスパンに対して細く、建物自体も傾いている。既存の躯体や構成を大きく変えることなく、構造補強や断熱性能の向上をするという難しい課題でしたが、損なわれていた採光と通風を新たに獲得し、機能性や居住性がをアップグレードしたリノベが実現しました。

クレジット

設計監理:赤熊宏紀建築設計事務所
施工:堀川勝史
大工:堀川勝史・黄瀬剛・中江隆満
左官:亀井左官
設備・電気:西道設備
キッチン・階段・建具:STADIO-A
黒谷和紙(階段室):ハタノ ワタル
照明(LDK・階段室):PARABOLA
カーテン:jyu+

物件情報

敷地面積:約112㎡
建蔽率:81%(既存不適格) ※現在の用途地域の上限50%
容積率:138%(既存不適格) ※現在の用途地域の上限80%
1階床面積:約90㎡
2階床面積:約64㎡
延べ床面積:約154㎡(46坪)
土地建物代:1,750万円

この方々にお話を聞きました

左:赤熊宏紀(ひろき)さん:建築家。赤熊宏紀建築設計事務所代表
右:赤熊記子(のりこ)さん:出産前までは勤務医(歯科)。現在でも不定期での検診などを担当

——こちらの物件はどうやって見つけたのでしょう?

赤熊宏紀さん(以下:宏紀さん)

妻が物件情報サイトで見つけたんですよね。2021年の4月だったと思います。ちょうど仕事も落ち着いたタイミングだったので、その日のうちに上の子を連れて見に行きました。

それまでは妻の実家が伏見にあることもあって、中書島の60㎡くらいのマンションに2人で住んでいました。引っ越し自体は子が生まれてから考えていて、知り合いの不動産屋さんのホームページを毎日のように見たり、何度か内覧もしたりしていました。そもそも希望するエリアの物件が少ないのもあり、なかなか見つからないので正直諦めていたところ、妻が見つけてくれたんですよね。

——実際見に行ってどうでした?

宏紀さん

見に行った日が雨だったのもありますが、印象も建物状態も正直よくなかったですね。ただ、普段の設計の仕事でもっとボロボロの物件を取り扱っていましたから、今建っていればどうにでもできる、と思いました。

ちなみに、不動産のチラシで「現状古家付きで更地渡し」のような記載を見ることがあると思うんですが、「現状のままだと解体費が減額できると思いますがいくら安くなりますか」と聞いてみてもいいかもしれません。然るべき設計さえできれば、施主も不動産屋も損しないし、環境負荷も減らせます。流通の段階から選択肢は絞らなくてもいいかなと考えたりしています。

赤熊さんが手がけられたリノベプロジェクトの一例(提供:赤熊さん)

——普段の設計のお仕事でもリノベが多いのでしょうか?

宏紀さん

比較的リノベが多いですね。その経験上、延床面積100㎡程度の物件を2,000万円くらいで買って、2,500万円くらいでリノベできたらいいかなと考えてました。

実際自宅の物件は土地建物代で1,750万円だったので、条件に合うなと。立地含めてここがいいと思ったので、当日に購入を決めました。

某不動産屋大手が専任媒介契約をしていて、その先の所有者さんは工務店を経営されている不動産屋さんでした。正直にいうと、知り合いの不動産屋さんに媒介をお願いしたかったのですが、「専任」なのでそれができませんでした。その時は延床面積120㎡程度ということで売られていました。

公園とは逆側の正面玄関
もともとの物件(提供:赤熊さん)

子育てしながらのリノベ

——「その時は」というと?

宏紀さん

実際に寸法を測ってみると、延床面積が154㎡だったんです(笑)。もともとの120㎡を考えると30㎡以上、約10坪も広かったことになります。広かったら得したと言う側面もあるとは思うのですが、単純に考えると、仮にリノベ費用が坪あたり80万円かかるとして、800万円追加でかかるということです。

ほかにも、解体を進めると井戸が出てきました。お祓いして、埋めるために15万円ほどかかりました。その分の費用は所有者さんにも相談したのですが、「現状渡しです……」という反応で、お願いはできませんでした。

図面を見ながらお話いただきました

——いざリノベをはじめるにあたって、施工はどなたにお願いされたんですか?

宏紀さん

施工をお願いしたのは、母校である新潟大学の同級生である堀川勝史さんにお願いしました。彼はその後京都工芸繊維大学に行き、設計施工を仕事にしています。京都のお店で言うと「九時五時」さん、「Hygge」さん、「くまのワインハウス」さんといった人気のレストランやカフェ、「太陽マンション」のような共同住宅のリノベなどを手がけられています。

——どのように進んだのでしょう?

宏紀さん

一般的にお施主さんがいる場合は、かなり細かく図面を描いてから施工者とやりとりして進めるのですが、今回は自邸であり、また施工者も勝手知ったる相手だったので、見積もりが取れるくらいの図面を描きました。設計期間は約2ヶ月程度、プランに限って言えば10日くらいで作成して、妻に相談して微調整したものでそのまま進んでいます。

工事は2022年9月から2024年2月と、1年半ほど。もともと予定では工事期間は9ヶ月を想定していたので、およそ倍です。工事費もなんとかおさえるということで、堀川さんに別で仕事が入った際にはそちらを優先してもらってもいいよという緩い感じでスタートして、結果的に18ヶ月の工事期間でした。一般の案件では、お施主さんと工務店さんに承認が必要なので、普段では採用できない進め方でした(笑)。

——子育てとの兼ね合いが大変そうですね。

宏紀さん

工事中に第二子の妊娠がわかり、上の子を連れて妻は実家に里帰りをしました。その里帰りがもともとは3ヶ月程度の予定でしたが、家の竣工に合わせて結果的に7ヶ月になりました(笑)。

赤熊記子さん(以下:記子さん)

うちの実家は伏見のなかでも交通の便がいいとは言えない場所なので、夫がすごく頑張ってくれました。週3で保育園に通わせていたので、朝に車で実家まで迎えに来てくれて、長男を園に送り、そこから仕事に向かい、仕事終わりに園に迎えに行って、実家に送り届けるということをしてくれました。

——設計や施工で大変だったところはどんなところでしょうか?

宏紀さん

床や天井を剥がしてみて思いがけなかったことが結構ありましたね。全体的に歪んでいるし、壁の建ち(垂直の精度)が悪い。全体的に傾いていたものを補強しました。建物自体もだいぶ揺れるので梁補強の間隔や梁せい(梁の高さ)は天井高の兼ね合い含めて気を使って決めました。ロフトをつくることでだいぶ水平構面が強くなった感じもあります。ロフトの存在は子供たちにはまだ秘密にしています(笑)。薄々タラップ(はしご)を怪しんでいますが……。

町家は側面側の外壁が隣地に近接していたり、連棟になっていたりすることも多いので、設備機器のルートや設置位置が重要なのですが、そこさえしっかり検討さえできていればある程度なんとかできるかなと思っていますね。

公園に向かって全開にできるスペース(ワークスペース)
閉じることもできます
公園側からリビングダイニングキッチンを臨む
もともとの建物。リノベ後のリビングからダイニングキッチン方向を見ている写真(提供:赤熊さん)
ダイニングキッチンに隣接する階段スペース。奥の鏡はトイレの扉
階段の上はトップライトを取り、2階の一部も光を透過する素材に

そのリノベにどれくらいかかった?

——リノベにはどれくらいの費用がかかりましたか?

宏紀さん

工事費は最終的に税込でおよそ4,150万円でした。もともと120㎡(約36坪)想定だったので、皮算用としておおよそ坪90万円、それが36坪、消費税を加味して、3,600万円の住宅ローンを申請していました。堀川さんへは1,200万円×3回(着手・中間・完了)の支払い予定でした。10坪くらい大きかったので、当初想定から足が出た分がおよそ400万円。それからこちらで購入や別途発注したものとして、照明器具の一部が40万円弱。そして壁面や天井に使用した作家ハタノワタルさんの和紙がおよそ75万円。カーテンに30万円強。プラス150万円くらいが足されて、これでおおよそ4,150万円ですね。

かかった費用、大公開!!

・土地建物代:1,750万円
・仲介手数料:約60万円
・印紙代:1万円
・増築未登記表題変更登記:約10万円
・登記費用:約13万円
・不動産取得税:約7万3千円 (土地)、約1万3千円 (建物)
・敷地境界線確定:売主負担

※関連費用
・固定資産税(令和4年分、売主と日割り計算):約1万5千円
・固定資産税(令和5年分):約2万3千円
→土地建物取得費:約1,850万円

・工事費:約4,150万円
・設計監理費:300~350万円程度(自邸のためありませんが、依頼された場合の金額。一般的な設計事務所なら工事費の12~15%くらいが多いかと思います。クライアントワークなら打合せの密度、作成図面の枚数も段違いに多く、コスト・スケジュール管理ももっとシビアですが【赤熊さんより】)

——記子さんはもともとリノベした家に住むことをどう思われましたか?

記子さん

実家は築40〜50年で、うちの祖父が職人さんで、なんでもやっていたんですね。実家もわたしが結婚する前にリフォームをして、だいぶ快適に過ごしていました。それまで「町家に住むのは大変やな」と思っていましたし、自分が家を建てるときには新築になるものだと自然に考えていました。

ところが、夫が設計した物件が完成すると見学に連れていってくれて、洗脳じゃないですが(笑)、だんだん「町家もいいな〜」と思ってきたんですね。

お施主さんの案件を案内した際の写真(提供:赤熊さん)

——じわじわと変わってきたんですね。

記子さん

言い方は悪いですが、「リフォーム」「リノベ」の違いもよくわからず、「しゃーなし」でやるものだという先入観はありました。

でも事例を見てみると、「こういうおしゃれなカフェを見たことあるぞ」みたいに、ちょっとポジティブにとらえることができたんですよね。実際、今から新たにはつくれない、ということでもありますし、それがリノベの良さでもあるんだなと。

わたしの友人がわたしたちよりも先に蹴上の方に物件を買いリノベしたのですが、セルフビルドも部分的に行いながらオシャレな家に住んでいます。

——古くなった家を新築に近い状態に回復させるのが「リフォーム」、以前よりもよりよくするのが「リノベ」であることを考えると、赤熊さんのご自宅はまさに「リノベ」ですね。

宏紀さん

流通している状態だと、部分的に家として機能しないところも正直あります。風呂やトイレは使えるときもありますが、今のライフスタイルに合わないものも多いですよね。加えて、町家や古家と一括りにされがちですが、既存の建物って全部違うんですよね。町家などは、各家庭にお風呂がなくて当たり前の時代に建っていた建物で無理やり増築しているもの、庭を埋め尽くすほど部屋を拡張しているものなど、現代では考えらない増改築が当たり前のように行われているので、お施主さんの要望とのバランスを見ながら、建物のために減築の判断もします。

他の案件でも100年紡いできた時間に経緯を払いつつ構造的には「もとよりもよく」を意識していますし、設備的には明快なルートを考えます。50年後に自分が設計したものを誰かがリノベするかもしれないので、恥ずかしくないものにしたいと思っています。

最近はこれまで以上に土地も工事費もお金がかかりますから、そういう場合はメリハリをつけないといけません。本当は全ての壁を漆喰塗にしたくてもコスト面からできない場面もたくさんありますので、部屋によっては壁や天井に和紙クロスやビニールクロスを使ったり、シナやラワンを使ったりとしっかりゾーニングしてコストコントロールしています。あるいは和室は状態がいいので潔く触らない、ということもしますし、下地を入れておく、電気配線を仕込んでおくなど将来的に追加工事しやすい状況を用意することもあります。

——バランスですね。

宏紀さん

総予算と求めているものをしっかりと見定めることが必要ですね。設計のときはお施主さんにかなり細かく色々と聞きます。この要望であれば1.5倍の面積がないと無理だな、とか、1.5倍の予算が必要だな、といったこともあります。

ときどき「見積もりを取ってみたけど予算の3倍もあったから諦めた」となってしまう例も聞きます。実現できなかったら0点だと思っているので、お施主さんの新しい生活や楽しみを詰め込んだ設計が、図面で終わらないように早い段階からコストを意識しながら調整をするようにしていますね。

——赤熊さんの工夫の仕方はありますか?

宏紀さん

図面を描きながら減額リストを平行してつくる、ということをしていますね。お施主さんと何度も打合せしてきているので、なんとなく重要視しているところの感度もわかってきます。「これはなくても成立するのでは、将来的にもできるのでは」というところをリスト化して、お施主さんと相談しながら調整していきます。予算が厳しい場合は大鉈を振るう場合も多々あります(笑)。普段からかなりの数にのぼるのですが、自宅でしたので今回は比較的少なめの60くらいの項目になりました。物件の規模や予算にもよるので、多いか少ないかの判断は難しいところではありますが。

自邸の減額リストの一部(提供:赤熊さん)

結果として、工務店さんの見積の時間短縮にもなります。一般的に、最初に見積が出てから、減額案を考えて再度見積をお願いすると2〜3週間かかるんですよ。トータルでみると工務店さんにとっても手間が減ると考えています。例えば最初はフローリングAを選んでいて、減額でBにするだけなら一緒に確認してもらうのも業務量的に大差ないでしょうし。

せっかく建築家として頼んでいただいているので、お施主さんにとって住みやすいのは当たり前、抽象的ですが「いい空間」なのは当たり前、工事のクオリティがちゃんと担保されているのは当たり前、スケジュール通りにできているも当たり前だと思っています。

お施主さんにとっては家づくりというわからないことだらけのことに対して、限られた予算をどう使うのが最善なのか一緒に模索するために並走するのも大事だと思っていますね。

赤熊さんご自宅のリノベ、かなり細かく数字も出していただきました。建築家と一言で言ってもその姿勢や考え方は当然ながら人それぞれ。赤熊さんの人となりも見えるお話でした。

では後編では、「この敷地でもし新築するとしたらどうなっていたか?」をシミュレーションしていきます。

赤熊さんが手がけられた、上御霊前町の事務所(提供:赤熊さん)
赤熊さんが手がけられた、大宮交通公園内の建築(提供:赤熊さん)

credit:

企画編集:榊原充大(都市機能計画室)、撮影:川嶋克(特記なきもの)

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