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【後編】そのリノベ、新築だったらどうだった?——新築だったら?

「新築がいいか?リノベーション(リノベ)がいいか?」結局は人それぞれという結論になりがちなこのテーマですが、今回はちょっと違う角度からみていきたいと思います。タイトルどおり「そのリノベ、新築だったらどうだった?」です。
 
すでにリノベされている物件を対象に、もし新築していたらどれくらいの費用がかかっていたのか?などをシミュレーションしてみます。
 
ご協力いただくのは、京都を拠点に、公共施設、店舗、住宅、そして新築、リノベ問わず多様なプロジェクトを手がける、赤熊宏紀建築設計事務所の赤熊さんです。2023年のイベント「KYOTO DIG HOME SUMMIT」にも参加いただき、Kyoto Dig Home Projectのスタートから関心を寄せてもらっていました。
 
今回見ていくのは、単に金額の多寡だけではありません。そもそも、いまリノベ物件が建っている敷地に新築する際に、同じ面積の建物を建てることはできません。また当然ながら、「つくり方」も変わります。赤熊さんが手がけられたご自宅を参考事例として、その敷地でのシミュレーションを考えてみましょう。
 
前編では、赤熊さんのご自宅がどんなリノベ物件なのか、そして赤熊さんがどんな建築家なのかについて、実際のスペックや金額をご紹介していきました。

後編では、赤熊さんのご自宅の敷地に新築を建てるとしたら、どれくらいの金額がかかるのか?を考えてみましょう。そもそもこの敷地に新築できるのか、建てるならどのようなプロセスになるのかを伺いながら、改めて赤熊さんに「振り返り」をしていただきます。

INDEX

この敷地に新築は建てられない?

左:赤熊宏紀(ひろき)さん、右:赤熊記子(のりこ)さん

——では単刀直入に。この敷地で新築したらどうなりますか?

赤熊宏紀さん(以下:宏紀さん)

まず前提として、建築基準法では建築物は敷地が幅員4m以上の建築基準法上の道路に2m以上接していないと建てられません。ところが、この敷地に接する道(路地)は建築基準法上の道路ではなく、幅員が4mもないんですね。

赤熊さん自邸につながる前面の道

宏紀さん

不動産屋さんのサイトなどで「再建築不可」という文字を見ることがあると思いますが、その言葉はつまりそういう「原則、新築が建てられない敷地ですよ」という意味です。でも、この敷地に関しては実は必ずしもそうではないんです。

この敷地に接する道は、ちょっと専門的になりますが、通称「ただし書き通路」と呼ばれる道です。建築基準法上は「非道路」扱いで、基本的には増改築や再建築はできませんが、京都市※の許可を受けることで建築を認められることがあります。

——「ただし書き」というのは?

宏紀さん

かつては「建築基準法第43条ただし書き通路」と呼ばれていた名残です。現在では「43条2項2号」許可ですね。建築基準法上は「道路」ではないですが、建築物や道が一定の基準を満たしていて、京都市※の許可が受けられれば、建築が可能となるものです。

前面の道

——建てられるかもしれないし、建てられないかもしれないということですか?

宏紀さん

京都市※の許可を受ける必要があるので、そういうことになります。ただ、不動産屋さんにも市役所に聞きに行ってもらって、確約ではないですが許可の対象になりそうな道である旨は確認してもらったので、建てられないということはないと思います。

※建築基準法に基づく特定行政庁

京都市の路地(非道路)にのみ接する敷地における建替え診断

京都市では、敷地が建築基準法上の道路に接道していない場合の建替手法について案内する「建替え診断サイト」を公開しています。
https://rojitatekaesindan.digitalpromotion.city.kyoto.lg.jp

——では建つものとして考えていきましょう。

宏紀さん

この敷地は用途地域が第一種低層住居専用地域です。京都市の都市計画のページを見るとわかりますが、建蔽率が50%で、容積率が80%。高さ10mまでという制限もあります。敷地が約112㎡なので、1階部分は112㎡×0.5(50%)=56㎡、2階建だとその2倍になるので112㎡です。ただ、容積率がかかるので、敷地面積の112㎡×0.8(80%)、延床面積で約90㎡くらいと考えてみましょう。

——おおよそ27坪くらいですね。

宏紀さん

ここからはシミュレーションとはいえ、一般的な坪あたり計算になります。

工事費がコロナ禍以降もずっと上がっているんですよね。これはリノベーションでの経験談ですが、改修の程度(屋根や外壁の工事の有無)でも変わりますが、およそ10年前の2016年9月に竣工した物件は、22坪で工事費が1,650万円(75万円/坪、フルリノベーション/以下事例A)。2019年3月に竣工した物件は34.4坪で工事費が2,120万円(61.6万円/坪、メリハリをつけたリノベーション/以下事例B)。

一方で、2025年12月竣工した物件の単価は、外国人のクリエイターさんがお施主さんでこだわった素材選びや造作工事も多かったので割高ではありましたが、126万円/坪でした。

事例A:御影石を壁に使った京町家のリノベーション(提供:赤熊さん)
事例B:1階2階の和室をほぼ既存とした京町家のリノベーション(提供:赤熊さん)

経験上言えることでもありますし、また工務店さんに聞いても同意されると思いますが、材料費、人工、どちらも下がったことがありません。

——この10年でグッと上がっているのですね。

宏紀さん

上がり続けていますね。工事費だけで言うと、27坪で単価120万円として3,240万円。ただ、さらに考えないといけないこととしては、敷地が路地奥だというがあります。

——というと?

宏紀さん

搬入の問題です。新築の場合、一般的には「プレカット」と呼ばれる、あらかじめ成形された材料を組み合わせてつくることになります。それを運ぶのは「ユニック車」と呼ばれる、クレーンがついたトラックで、中心的なサイズは荷台の長さが約4.6m〜6.2m、幅が約1.7m〜2.4mと大きいんですよね。

そんな大きなユニック車を家の前のこの細い道につけることはできません。当然クレーンも使えないので、軽トラで手運びして、人力で立てる必要があります。

そうするとすべての工程で人工も増えるので、おおよそ工事費は10~20%ほど割増になります。この敷地に約27坪の新築を建てるとすると、ざっと3,700万円はかかるでしょう(別途、既存建物の解体撤去費で約400万円、さらに地盤調査費、確認申請料などもかかります)。リノベーションだと土地建物購入費も工事費も含めてトータルで6,000万円ほどでしたが、仕様にもよりますが新築したとしてもおおよそ6,000万円になります。

計算式

27坪×120万円×115%=3,726万円 ⇒ 約3,700万円
1,850万円(土地取得)+400万円(解体費)+3,700万円(工事費)+50万円(地盤調査、確認申請など)
※前編参照のこと

僕らからすると、工事費に差はありませんが、154㎡から90㎡になるので、家が64㎡ほど狭くなることになります。現状比較だと2階がなくなるくらいになりますね……。設計者視点だと、確認申請に付随する申請業務が膨大に増えるのは時間も費用もかかるのでネックですね。

ダイニングから公園の方を臨む

やってみて見えたこと

——改めてリノベーションの話をお伺いしたいのですが、振り返ってみていかがですか?

宏紀さん

これまで京町家や古家を含めたリノベーションで20軒以上に携わらせて頂いていますが、新築の戸建て住宅としては滋賀で1軒が竣工、京都で現在1軒が進行中と、まだ2軒。極端に偏っています。不動産屋さんからの依頼で、規制の厳しい敷地や狭小敷地などで法規整理して新築のプランとパースを作成するという依頼をいただくこともあるのですが、建築に至らない場合もありますね。

新築の件数でいくと、公園施設や共同住宅の方がそれぞれでも多いくらいなんですよね。あくまで自分の立場ではありますが、社会情勢も含めて住宅はリノベーションを依頼されることがこれからも多くなるのかなと思います。

規制の厳しい敷地での新築プロジェクト
狭小敷地での新築プロジェクト

そんななかで、クライアントから聞かれたときに実体験に裏付けられた返事ができるのは大事だなと改めて思います。

これからお施主さんやお施主さんになるかもしれない方に、「この素材は〜」と実際に見てもらえるのもいいなと。ある種「サンプルとしてのショールーム」のようになっています。

選りすぐった古建具の風合いを活かした寝室。赤熊さん曰く「今は家族4人で布団を敷いて寝ています」とのこと
本来は記子さんの寝室として設計されたものの、今ではお子さんから「2階の公園」と呼ばれている2階の一室
「普段はこんな感じで遊んでいます」(提供:赤熊さん)
本来は赤熊さんの寝室兼書斎として設計されたものの、普段はお子さんの勉強部屋として使われている一室

——昨年2025年4月には建築基準法も改正されましたが、影響は感じますか?

宏紀さん

今回の法改正で、木造2階建住宅等の小規模建築物についても、「大規模の修繕」や「大規模の模様替」をおこなう際に、建築確認等の手続きが必要となりました。例えば階段(主要構造部)の位置変更をおこなうと大規模な修繕にあたり、申請をしないといけなくなったことになります。法改正以降で該当する案件はないですが、これが大変だなと設計者間で話すこともあります。現在では新築の確認申請にも時間がかかるようになったのでなおさら。

京都市:伝統的構法による木造建築物について(京町家できること集)

——京都市の補助金は取られましたか?

宏紀さん

補助金はちょうど僕らが購入した2021年頃は財政難だったからか中止していたんですよね。一方で、たとえば数十万円の補助金を得るために申請者と施工者の手間がどれくらいかかるかをしっかり考えないといけないなとも思います。20万円の補助金もらうための手間なら、値引きするわという昔ながらの工務店さんもいたりしますが。

——実際に計画していたときと、できたときとで想定と違ったところはありますか?

宏紀さん

玄関入ってすぐの玄関クロークとキッチン横のパントリーが接しているのですが、そこにあけた小窓は思ったよりも使わなかったですね。当時子連れでベビーカーでの買い物が多い妻にとって便利かなとは思ったのですが、あんまり使わなかったですね(笑)。

玄関の収納と小窓でつながるパントリー

——記子さんの視点からはどうですか?

赤熊記子さん

全体的に子供の部屋になっているというか、占拠されることも多いですね。すべての部屋におもちゃが溢れているときもあります(笑)。

当初は客間として設計されたものの、普段は部屋一面線路になっているそう
普段の様子(提供:赤熊さん)

——施工者さんとの関係性についてはどうでしたか?

宏紀さん

18歳からの友達とはいえ「損のないようにしてね」と伝えていました。施主もつくっている側も損せず、職人さんもいい仕事ができたと思えるような建築で最終的にみんなよかったねと着地できることを心がけました。そういう意味では、建築家の自邸ではありますが、「作品」という要素よりも全体のバランスを心掛けたかなと思います。普段から「高く飛ぶ」よりも「ちゃんと着地できる」方を大事にしているところを体現した建築かなと思います。

赤熊さんのシミュレーション、いかがでしたか?リノベーションと新築を金額で比較すると、結論からいえば「金額的には差はなく新築できそう」ですが、面積の方で大きく違いが出て、「つくり方」まで変わる、ということがわかります。

リノベーションか、新築か、どちらが正しいというわけではなく、ご自身の状況や好みはもちろん、敷地などによっても「選択」は変わります。ぜひ広い視点で検討をしていただければと思います。

では最後に、赤熊さんご自身による「ふりかえり」をご紹介。あらためて、ご協力ありがとうございました!

ふりかえり

◯建築家の自邸でも全部はうまくいかない

僕らもそうでしたが、仕事や家族構成、子供の就学、住宅ローンがいくら借りられるかなど色々な要因によって家を選ぶと思います。家をつくるということは大金を使うにも限らず、折り合いをつけたり、妥協したりしないといけないことの方が多いと思うんです。

広さや既存の状態を加味するとだいぶコストパフォーマンスが高い自負はありますし、細かいところも配慮した設計のつもりです。ですが、費用とクオリティに関しては間違いなく、堀川さんや職人さんのおかげです!

物件の購入を決めた日が雨で赤ちゃん連れだったこともあって、実は公園に面した土地なのにロケーションの良さをほとんど意識できていなかったんですね。結果的に、春にはきれいな藤棚が咲きますし、公園ではお年寄りが体操したり、園児が散歩に来ていたり、マンションとは異なり、ほどよく活気を感じられる距離感も新鮮で、住んでから感じる良さもあります。


春には藤棚にきれいな花が咲く(提供:赤熊さん)

子供はいつか出ていくだろうし、僕らも歳を取るし、不測の事態だって起こるかもしれないので、生涯を通しての最適解は見つからない(ない)と思っているんです。建築家の自邸でも全部はうまくいかないものです。むしろ、クライアントワークの方がうまくいっています(笑)。自分自身が建築家で施工も友人という特殊な環境下での自邸づくりでしたが、「後悔しないことを先行しすぎて、楽しむことがおろそかしない」ことが大事というのは施主としての経験からもすべでの家づくりに当てはまるのではないかと感じています。

◯新築とリノベーション

施主としても建築家としても、新築もリノベーションも設計するのはどちらも面白さがあると思います。そのため、お施主さんにも「本気で向き合って楽しんでください」とよくお願いしています。設計者としてはどちらも大変なことの方が多いですが(笑)。新築だと諸条件はあるにしても、建築家からプレゼンされた時の驚きは大きいと思いますが、自由度が高いので比較検討では悩むことは多いかなと思います。リノベーションは、躯体の制約はありますが意外と既存建物から振り幅のある仕上がりにもできたりしますし、すでに建っているのである程度の空間を体感できるのは利点だと思っています。

新築でも調整や追加検討はありますが、確認申請もしているので概ね図面通りにできます。目指すところが明確なのでわかりやすいですね。その点、リノベーションは大なり小なり不測の事態がおきます。しかも細かいものは山のように(笑)。設計者が判断しないと工事が滞るので、現場での瞬発力も求められますし、必然的に現場監督や職人さんと相談することも多くなります。その中で、当初の設計時よりもよくなることもありますし、こちらの引き出しが増えることもあるので個人的にはとても好きな時間です。

新築は個人宅でも街並みや風景を新たにつくることになると言うのは意識していて気を使うところでもあります(京都市などであれば景観条例もありますし)。京町家のような歴史をまとった建物のリノベーションであれば、これまでの100年を引き継いで、これからの100年の一端を担うような仕事にしたいとは思っています。

いつか自邸の新築もしたいと思っていますが、子供たちが楽しそうに過ごしてくれていて、妻がこの家に住めなくなるのが嫌と言ってくれているのは建築家として嬉しいところです

credit:

企画編集:榊原充大(都市機能計画室)、撮影:川嶋克(特記なきもの)

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