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あなたは京都の、どこに住む?第2回今熊野編

一度は住みたい、そして住みつづけたいまち、京都。
狭いようで広く、どの地域やエリアに住むか、悩ましいまちでもある──。
京都で不動産プランナーとして活動する、岸本千佳さんに「いま、京都に住むならどこが面白い?」と尋ねてみた。
世間のイメージからこぼれ落ちる情報を拾って、「住む」という目線から見た場合、意外なまちが輝き出した。
自分らしくいられる、お気に入りの場所を探して。
まだ見ぬ京都のまちと出会おう。
第二回は、東山区「今熊野」。岸本さんのエッセイでお届けします。

INDEX

いま、京都に住むなら「今熊野」が面白い

”ひと昔前の京都”を感じる

200番台の市バスに揺られていると、「今熊野」というバス停を目にしたことのある人は多いだろう。窓越しに見える東大路通沿いの商店街は現役で、店の並びに昭和っぽさがうかがえる。

バスを降りて歩いてみると、細長いカウンターのローカル寿司屋が繁盛し、ジャージ姿の家族連れが並んで歩き、どの喫茶店でもホットコーヒーのスティックシュガーが2本、ソーサーに収まっている。

一見なんてことないスーパー「ステップ今熊」は、前身は市場で、野菜担当のおじさんが旬を説明してくれるし、質が良くて安い。地元に人気の甘味処では、店員と客が同じ保育園だったというトークが繰り広げられ、初めてのはずが、自分も住んでたっけ、と錯覚する。


「澤正」という蕎麦菓子店は、店舗と工場、蕎麦茶寮がすべて今熊野の内にあり、百貨店などに卸さず、このまちでのみ展開する。手焼きのそばぼうろは、神戸のパンの修業を経たという初代のこだわりか、硬すぎないサクサクッとした口ざわりで、近くに来るときは絶対に寄ろうと誓う。


ひと昔前の手ざわりのある京都を感じられるところが少なくなってきた昨今、この気負いなき地域は、なかなか貴重だ。それでいて、京都駅から自転車圏内というのは、この雰囲気が好きな人にとっては、穴場という他無い。

親しみやすさとインディペンデントさと

この界隈では、「窯元もみじまつり」という陶器市が毎年行われている。京都に数ある陶器市の中でも、段違いに敷居が低い。というのも、入り込んだ住宅地の家の軒先で、日常使いのための器を売る様子は、まさに職人版ガレージセール。「ごはん茶碗が割れたから、安くて良さそうなん買いに来たんやけど、どこで売ってるやろか?」と近所の人の声が聞こえてきたが、この親しみやすさが、このまちを現しているように思う。

親しみやすさに加え、インディペンデント性もある。以前、知人がトークイベントで、「インディペンデントな方が、京都で生きてる感じがする」と話していたことがあったが、今熊野ほど、今も昔も、インディペンデントな血が流れているまちは無いだろう。


京焼(清水焼)の生産地だった五条坂や粟田口は、産業が栄えたことで建てられる土地が無くなった。そこで、未開の竹やぶの荒地であった蛇ヶ谷(じゃがたにと読み、やたらとカッコイイ)という今熊野の一地域に、次々と製陶の工場が作られることとなる。全盛期には12基もの登り窯が操業し、陶磁器の生産地となった。という歴史的背景がある。つまり、ここは陶工という職人のために新しく開拓された地なのである。今も竹やぶが残り、木々に囲まれた少しうっそうとした山道が、住んだらお気に入りの散歩コースになるだろうなと予感させる。


陶工達は、蛇ヶ谷に移り住み、新たな雇用関係も作り出した。強固な師弟関係が当然の世界で、蛇ヶ谷は、個人事業主や雇われの職人が多く、師もない無名の新参陶工が京都に移ることのできる唯一の地だった。また、瀬戸、有田、九谷、信楽といった日本各地から、修行に来る場所でもあったのだ。

クリエイターが生きやすいまち

これを現代に置き換えてみたい。伝統に縛られず、自由に作品作りに没頭できるフリーランスのクリエイターの聖地のような場所。仲間が近くに拠点を構えていて、相談や協業ができる。建物は、従来の使い方をうまく継承しつつ、自分らしくアレンジ可能。
 

京都は今でも、クリエイターにとっては聖地っぽい部分があると思う。私は普段、西陣を拠点にクリエイターのための場づくりを業としているが、西陣は西陣織という伝統工芸の職人が生きるまちである。ものづくりをしてきた素地があるまちは、新しくものを作る人にとっても生きやすい。


たとえば、京都の中心部のような木造密集地域だと、機械の作業音を拒まれることも多いが、もともと機械音が鳴っているまちで暮らす人は、さほど気にしない。建物だって、玄関から広い土間が続いて奥に水廻りがあるなど、現代の作家にもそぐいやすい空間構成だ。家のような小屋のような工場のような、謎で簡素な建物もこういう街には多く、普通の人からするとただのボロ家であっても、クリエイターからすると、扱いやすく創作意欲をかき立てられ、グッとくる。

気を遣わずに制作に集中しやすい環境というのは、結構大事なポイントである。地域がクリエイティブに慣れているというのは、作るものや年代が違っても、それを超えて、何か理念を共有できているように思う。
こういった街性に、かつての陶工達も癒され、楽しんでいたのだろうと想像して歩くと、これまた楽しい。

岸本千佳セレクト 今熊野に住むならこんな物件

ものづくり作家に似合う、庭付き平屋建ての暮らし

今熊野でものづくりの作家として生活したい方には、庭付き平屋という選択肢はぴったりだと思います。
作家さんは、土間を広くとるなど自分の作業環境に合わせてリノベーションすることになりますが、コンパクトであるので改装費も最低限で済みます。ものづくり作家だけでなく、単身者の京都らしい住まいや二拠点生活にも合いそうな物件ですね。

物件情報

所在地:京都府京都市東山区 今熊野宝蔵町
販売価格:1250万円(2024年1月時点)
土地面積:74.11㎡(公簿)/ 22.41坪
延床面積:39.66㎡(登記簿)
築年月:1941年1月1日
アクセス:奈良線 東福寺駅 徒歩15分
     京阪電気鉄道京阪線 東福寺駅 徒歩15分
     京阪電気鉄道京阪線 七条駅 徒歩17分
     東海道・山陽新幹線 京都 徒歩23分
URL:https://land-kansai.com/sale/2118559124060000004825/

※ 物件情報は記事作成当時のものです。売却済みの場合がございますのでご了承ください。
※ 各種法令上のことについては専門家にご相談ください。活用・改修に際しては、専門家と相談して適切に行ってください。

今熊野学区に住む方に聞いた、今熊野暮らしのホンネ

Aさん(40代/男性/お子さんは小6と高3)  今熊野は何世代にも渡って住む人が多いですが、私のように新しく入ってきた者に対しても広く門戸を開いてくれる感じがします。私自身が地域活動に参加してあれこれアイデアや考えを提案しても「地域のためになるんやったら」と、初めから「ノー」とは言わない空気感があります。商店街近辺では、コミュニティを広げようとする新しい動きもあります。 Bさん(30代/男性)  今熊野に住んで10年ほどになりますが、フォトグラファーの仕事で週に一度のペースで東京と京都を行き来する生活です。いつも重たい機材を持って移動しなければならないので、京都駅までタクシーでワンメーター弱の距離感が本当に助かりますね。 Cさん(20代/女性)  今熊野や泉涌寺は陶芸作家を志したときから憧れの場所でした。みんなでシェアできる窯があるので、個人でなかなか窯を持てない同世代の作家も多い。まち全体がオープンファクトリーのような感じで、他の人の作品も間近で見られて日々刺激になります。

岸本千佳

不動産プランナー/株式会社アッドスパイス代表取締役

岸本千佳

1985年京都府生まれ。滋賀県立大学環境建築デザイン学科卒業後、東京の不動産ベンチャーで働いた後、京都でアッドスパイスを設立。不動産の企画・設計・仲介・管理を一貫して担うことで、時勢を捉えた建物と街のプロデュースを行う。京都芸術大学非常勤講師。著書に、『もし京都が東京だったらマップ』(イースト新書)、『不動産プランナー流建築リノベーション』(学芸出版社)。

2024年8月8日に岸本千佳さんがご逝去されました。プロジェクトチームとしてご冥福をお祈りします。

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原稿執筆:岸本千佳

企画・編集:合同会社バンクトゥ 光川貴浩、窪田令亜

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