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路地物件は、意外にも自由度が高くて“使い道”が広がるユニーク住宅に化ける?

路地物件#2 吉田卓史さん・中馬彩夏さん宅
「ほぼ全面土間だから、
レストランみたいな感覚で人を呼べるんです」

次に紹介するのは、京都市内の古物店「ものや」に勤める吉田卓史さんとヘアサロンのスパニストとして働く中馬彩夏さんのお宅。「天神さん(北野天満宮)」のお膝元である北野商店街から細い路地を進んだ先に佇むお家です。

商店街から、人ひとりがやっと通れるぐらいの道をずんずん進んでいきます。この道を曲がった先に、吉田さんと中馬さんの家が現れます。

選んだ物件は1階が全面土間。一般的には、ちょっと使い勝手が悪いと思うような環境も、「人を招きやすい家」を探していた吉田さんの眼にはこれ以上ない物件に映ったのだそうです。

【基本情報】
住み手:20代、二人暮らし
エリア:西陣(千本中立売あたり)
築年数:不明(約120年くらい)
家賃:7万5000円(月額)
改修費:約5000円(DIY可の賃貸物件)
延べ床面積:約60平米

—— なぜこの路地物件を選びましたか? また、どのようにして路地物件と出会いましたか? 物件探しのコツがあれば教えてください。

吉田さん

もともとは西陣織の職人さんの工房兼お住まいだったそうで、1階がほぼ全面土間というちょっと変わった構造なのですが、2階は割と綺麗にリノベーションされているので普通に生活できるんですよ。下は人を呼ぶ場所、上は普通に住む場所という棲み分けができるのであんまり不便みたいな心配もありませんでした。

中馬さん

最初、土間については正直大丈夫かなと思ったのですが、卓史さんが「なんとかする」と言ってくれたので前向きに考えて、実際なんとかなりました。笑

路地から入ると、玄関はなく、ほぼワンフロア分の土間リビング。向かって右側の小上がりに2階の住空間に通じる階段がある。

吉田さん

古物屋の仕事とは別に、料理人としてケータリングなどの仕事もしているんです。人が集まって食事を囲める場をつくりたいっていう思いがあったので、土足のまま入れて、少々お酒なんかをこぼしても気にならない土間がよかったんです。

吉田さん

物件探しはルームマーケットや京都R不動産、トンガリエステートなどの不動産サイトを見ていました。条件は家賃が8万以内で一戸建て、あとは人を呼べる広さがほしいという感じで見ていましたね。この物件はルームマーケットで見つけて、僕らが1組目の内見。すぐその場で決めちゃいました。

2階は二間あり、入居時から綺麗にリノベーションされた状態で、住みやすさを感じたのだそう。
布団の収納などに活用されていた押入れ部分に棚を渡して本棚に。
水回りの洗面台はレトロなタイル張り。右側は日本初の家庭用ユニットバスを発明した「ほくさん」のお風呂。お風呂が高価なものだった時代の名残。

—— どのようにDIYしましたか? こだわったポイントがあれば教えてください。

吉田さん

彼女が町家のような古いものが好きなので、なるべく本来の建物の姿がいいなと思ってたんです。1階の壁と階段の天井に貼られていたプリント合板を剥がしてみたら、味のある土壁が出てきたのでラッキーでした。DIYでしたことは、改装というより復元を目的とした解体。掛かった費用もクリーンセンターに廃材を持ち込んだ処分費5000円ぐらいです。

プリント合板を剥がして出てきた土壁。化粧ベニヤやプリント合板は、素人でも簡単に剥がせることができ、京町家本来の味わいを出しやすい。

吉田さん

京都の町家物件は、賃貸でも事前の連絡があれば改装OKな建物もあります。契約前に確認しておけば、現状復帰の必要もありませんし、思い切って手を入れることができると思います。

西陣エリアの京町家は、背の高い西陣織の織機を置いていた物件(織屋建て)も多く、総じて広い土間と1階の天井が高いことが特徴。

吉田さん

DIYというより活用の仕方になるかもしれないのですが、織機が置かれていた名残で土間と2階の間に中二階のような不思議なスペースがあったんです。ここが気に入って、居心地もいいのでお茶室にするか悩んだんですが、今のところはぼくが集めた家具類を収納しています。

—— 路地=狭い・暗いといったネガティブなイメージもあると思いますが、快適に住むための工夫があれば教えてください。

中馬さん

路地奥特有の暗さ、みたいなところは気にならなかったです。2階は割と光が入りますし、個人的には明る過ぎないほうが落ち着くので。

光のよく入る2階にはワイヤーを活用してカーテンレールを自作。カーテンがわりにかけられた和紙はまるで障子のよう。

吉田さん

ご近所への音の配慮はしつつ、人が集まりたくなる空間であることは意識しました。オープンキッチンのようなイメージで人が溜まりやすいようなレイアウトにしています。

「料理をやっているのでそれをちゃんと見せられる場所にしたかった」と吉田さん。こだわりのキッチンのレイアウトも、土間だからこそ自由度をもって調整できたという。
DIYで取り付けられた棚には、調味料やスパイス、料理道具が並ぶ。
ダイニングテーブルは、「アーク京都」で1万円ほど。ホームセンターで買ってきた1つあたり2000円のブロックを足場に高さを調整した。

吉田さん

あと、古物屋に勤めている観点からいうと、京都にはおもしろいリサイクルショップが多くて、古い建物にあった家具や小物を揃えやすいと思います。ぼく自身がよく行くのは一乗寺にある「アーク京都」。取り扱う古物の回転が早く、なにより安い。この近所だと「阡伍1005(せんご)」っていう古道具屋とリサイクルショップの「HAND to HAND」によく行きます。 マンションに合わせて新しい家具を揃えるとそれなりにお金がかかるけど、こうした古い建物って、家具も中古のほうが合うし、そうしたコストも抑えられるように思います。

—— 一般的な建物より、路地内の住民同士の距離が近いと思いますが、路地生活ならではのエピソードがあれば教えてください。

吉田さん

基本的にご高齢の方が多く、ご近所付き合いはあまりないですね。ご家族で住んでいるお宅のお子さんがたまに前を通って覗いてきたりとかありますけど、付き合いがややこしいとかはないです。こちらからは、人が集まる時に騒がしくてすいませんとお伝えしたりはします。

—— 路地奥に住んでから気づいたことがあれば教えてください。 

中馬さん

マンションで暮らしていた時と比べると家から出なくなりましたね。私は落ち着いた色味が好きなので、古い建物の木の感じがすごくリラックスできます。

吉田さん

この家に住みだしてから、自分が生活で使うものを修理して長く使おうみたいな考えになってきました。コップとか割れても、金継ぎしてみようとか。壊れたから終わりみたいな感じではなくなりましたね。

中馬さん

この家の色味とか落ち着いた雰囲気が好きで、棚のような大きな家具は私が選ぶことが多いです。それに合わせて、卓史さんが小物を選んでくれるのが助かります。

吉田さん

小物選びにも、建物の影響が出ているように思います。もともとは、どちらかというとポップなプラスチック製品や工業製品っぽいデザインが好きだったんですが、建物の雰囲気と彼女の趣味に合わせて、落ち着きのある工芸品や民藝感のあるものに触手が伸びるんです。古い建物のおかげで、物選びも勉強になっています。

「引っ越し以前とチョイスするものの雰囲気がガラッと変わった」と吉田さん。

—— これから路地物件に住む方・探している方へのアドバイスをお願いします。

吉田さん

おすすめします。困ったことは壁を剥がした際にねずみが出てきたことくらい。プロに害獣駆除を依頼すれば解決しましたが。なにより家賃のわりに、この広さと空間が手に入るわけですから。現状復帰も必要ないし、自由に手をいれて住めるのが楽しいですね。

中馬さん

勤めているお店が市内の中心部だったこともあり、以前は職場の近くに住んでいたのですが、寝に帰るぐらいの生活になっていてリラックスはしていなかったなあと。自転車があれば、15分ほどで西陣から市内の中心部にいけますし。以前のマンション暮らしより、とても落ち着きますね。

「こんな良い家に出会えるなら、引っ越しもポンポンしてもいいなと思える。いい感じに暮らして満足したら引っ越すか、みたいなことも考えていますね」と吉田さん。

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「静かな仕事場でもあるし、人通りがないからこそ、
出会った人とは会話が生まれます」

credit:

企画編集:合同会社バンクトゥ光川貴浩、窪田令亜

企画協力:水迫涼汰

撮影:光川貴浩

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