路地物件#3 水迫涼汰さん宅
「静かな仕事場でもあるし、人通りがないからこそ、
出会った人とは会話が生まれます」
3軒目は船岡山公園の近くで路地住まいをはじめた水迫涼汰さんのお宅。国の登録有形文化財に指定されている銭湯・船岡温泉のほど近く、入り組んだ路地のどんつきに建つかわいらしいタイルに覆われた家を自宅兼事務所とされています。
京都で学生生活を送り、横浜で4年半ほど過ごした後、デザイナーとしての独立を機に再び京都へと戻ってこられました。会社勤めの頃は週末をプライベートの時間に充て、DIYに勤しんでいたそうですが、フリーランスになってからは自宅で過ごすほとんどの時間を仕事に割いているのだそう。
「最近、お茶にハマってます」と、古い水屋箪笥から取り出した茶器で淹れてくれたのは、蛾の幼虫の“糞”を原料とするお茶「虫秘茶」。水迫さん自身がロゴやパッケージなどのデザインを手がけたもの。仕事とプライベートが良い意味で同居する空間を訪ねました。
【物件情報】
住み手:30代、一人暮らし
エリア:西陣(鞍馬口智恵光院あたり)
築年数:99年
家賃:7万2000円(月額)
改修費:約2万円(DIY可の賃貸物件)
延べ床面積:約33平米
—— なぜこの物件を選びましたか? どのように物件と出会いましたか? 物件探しのコツがあれば教えてください。
もともとこの物件は友人2人が住んでいた家で、彼らが引っ越すことになったタイミングで「住みたい」と言ったら大家さんに電話してくれて。その電話一本で住むことが決まりました。ぼくは物が多いし事務所としても使いたかったので、ある程度の広さがある家に住みたかったんですよね。
部屋選びの決め手になったのは床板ですかね。この物件はもともとルームマーケットが仲介していました。ルームマーケットって、賃貸募集をする前に床材を張り替えてくれている物件が多いんですよ。壁や天井は自分で塗り替えたり簡易的に壁紙を貼ったりすることができるけど、床のDIYは大変なのでありがたいです。
—— どのようにDIYしましたか? こだわったポイントがあれば教えてください。
玄関を入ってすぐの土間のところは、以前住んでいた人がこぼしたと思われる赤茶色の塗料が変に目立っていたので、自分でモルタル風の塗料を塗ってみました。町家に住むなら絶対に土間のある家がいいと思っていたんですけど、土埃が気になって。綺麗にしたおかげで、裸足で歩ける土間になりました。
寝室の壁と天井は、中古住宅独特の合板をどうにかしたくて。淡いモスグリーンの塗料で塗ってみたら、なんだか洋風の雰囲気を出すことができました。お気に入りの北川マリナさんの絵もぴったりハマる感じになってよかったです。
昔の人には必要だったものだけど、現代人には不要になった間取りや用途不明のスペースがあったりするんです。それを自分なりに読み替えて、間取りや物をレイアウトするのも、古い家の楽しみ方かもしれません。
—— 路地=狭い・暗いといったネガティブなイメージもあると思いますが、快適に住むための工夫があれば教えてください。
たしかに、暗くてジメジメしていて音の問題がある、みたいなイメージはありました。一番心配していたのは虫だったんですが、塞ぐべき穴を塞いでいるからか、虫もネズミも家の中では見たことがないです。
—— 一般的な建物より、路地内の住民同士の距離が近いと思いますが、路地生活ならではのエピソードがあれば教えてください。
回覧板を回したり、ゴミ捨て場のネットを片付ける当番が回ってきたりすることはありますが、日常的なコミュニケーションはそこまで多くないです。ただ、路地ですれ違ったご近所さんと思いがけず会話が弾むこともあったりしますね。
先日も知人の子を預かった時に路地を3〜4時間散歩していたんですが、偶然出会った親子と話し込んで、しまいには一緒に虫取りをしたりして。路地って人通りが少ないからこそ、出会った人とのコミュニケーションが自然に生まれるような場所なのかなと思います。
—— 路地物件に住んでから気づいたことがあれば教えてください。
近隣に住む子どもたちの声や裏のスナックから歌声が聴こえてくるとか、周囲の生活音は多少なりともありますね。でもそこはお互い様というか、みんなある程度は許容している感じがします。
—— これから路地物件に住む方・探している方へのアドバイスをお願いします。
京都の路地ってどこを歩いても常に発見があって面白いんですよね。僕の住むあたりは特に入り組んだ路地なので、ふだん通る道以外は、いま自分が向いている方角さえもわからなくなることもあるんです。けど、迷い込んだ時にたまたまいい感じのお香屋さんに出会ったり、嬉しい迷いがあるんです。建物が密集しているのも、ある意味では“宝探し感”がありますよ。
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「工房への物の運搬に、子どもの遊び場に、地域の寄合所に…
路地が大活躍しています」