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あなたは京都の、どこに住む?第3回鷹峯編

一度は住みたい、そして住みつづけたいまち、京都。狭いようで広く、どの地域やエリアに住むか、悩ましいまちでもある──。
京都で不動産プランナーとして活動する、岸本千佳さんに「いま、京都に住むならどこが面白い?」と尋ねてみた。
世間のイメージからこぼれ落ちる情報を拾って、「住む」という目線から見た場合、意外なまちが輝き出した。
自分らしくいられる、お気に入りの場所を探して。まだ見ぬ京都のまちと出会おう。
第三回は、北区「鷹峯」。岸本さんのエッセイでお届けします。

INDEX

いま、京都に住むなら「鷹峯」が面白い

農とともに歩んできたまち

「京都で一番好きなパン屋なので行ってみて」と、知人に強く勧められ、パン好きとしてはスルーできず、クロアというパン屋をお目当てに、鷹峯というまちを訪れる。店の扉を開けるなりパンの香りが広がり、おっとりした女性によって焼きたてのパンたちが次々と運ばれ、どれも魅力的で目移りしてしまう。レジの向こうには、寡黙そうな男性が大きなパン窯でひたすらパンを焼いているのが見える。

ちょうど秋晴れで天候が最高な日だったので、近くの広めの公園で、ピクニック気分で食べてみる。ここまでの一連の体験が、たしかに、一番かも。とゴルゴンゾーラチーズのパンを頬張りながら、コンビニのアイスカフェラテ片手に得心する。

 歩いていると、野菜の無人販売所をやたらと発見する。ひとつふたつならまだしも、7箇所は見つけただろうか。

京野菜にも認定されている鷹峯とうがらしの大入りを200円で買って帰った。これが、トースターで焼くだけでも、十分肉厚で甘い。無人販売の奥では採れた野菜を仕分けしたり、どこかで販売した帰りと思しきトラックが家の前に停まっていたり、農とともに生きるまちであることを実感する。無人販売所も当たり前に受け入れられているのか、同じテンションで、家の前にパウンドケーキの無人販売機が置かれているところもあった。

鷹峯というと、京都の人からすると、昔からあるしょうざんグループや最近進出したアマンホテルもあり、“高級リゾート地”いう印象が否めない。ただ、実際は、高級ホテルや良質な素材を使った料亭などと、野菜の無人販売のある民家が横並びしていて、そのちぐはぐさを平気で受け入れているあたりが、このまちの魅力だといえる。

昔からそんな風景があったのかもしれない、と想像する。鷹峯は、琳派の祖とも言われる本阿弥光悦が移り住み、仲間とともに屋敷が並ぶ芸術村を作ったという背景がある。
一方、鷹峯の隣接地域は玄琢という地名で、医者だった野間玄琢という人名に由来する。玄琢は、当時最新の漢方医学を修め、京都の人の病の治療に尽力した人物で、この畑地一帯で薬草を栽培していた。その畑で、現在も鷹峯とうがらしや鷹峯ネギといった京野菜が作られており、受け継がれた農のストーリーのある地なのである。

無人販売所というと、私は、東京で働いていた時分、世田谷区の端のまだ畑が残っているようなところに住んでいて、野菜の無人販売があったのを思い出す。友人が隣に住んでいたので、私の分まで買って、玄関のノブに野菜を入れた袋をかけてくれていることもあった。仕事でクタクタになって帰宅すると、その白いビニール袋が夜空に映えて、心が癒えたものだった。スーパーでは見かけないような野性味あふれるルッコラが私たちのブームで、夜中にさっと炒めて晩御飯にしていた。

フレッシュな野菜のある生活は、その野菜から献立を考えるプロセスが楽しいし、心もフレッシュになり、単身者にも身をもってお勧めする。特に、この鷹峯は、まちなかとの距離が意外と近く、バスで千本通りを下がると非常に便利だ。車さえあれば、ハードワーカーでも畑のある暮らしが夢ではない。ちなみに、駐車場代も格安である。

愛される御土居

歩みを進めると、和菓子屋さんに遭遇し、いっぷくに名物の御土居餅を買ってみる。

そう、鷹峯は御土居というコンテンツもあるのだ。全国区に知られている言葉ではないが、御土居とは、豊臣秀吉によって作られた京都の街なかを囲む土塁を指す。敵の来襲に備える防塁と鴨川の氾濫から市街を守る堤防としての役割があったもので、ブラタモリ京都編ではたいてい御土居がカギとなっている。「カーサ・ODOI」という名のマンションも道の途中に見つけたし、地元の御土居愛が伝わってくる。

お餅を受け取った際、店の人に「御土居の目の前なんですね」と何の気なしに言うと、「御土居、見ます?」との返事。「え、見れるって中に入れるんですか?」と思わぬ提案にこちらが窮しているうちに、奥から鍵を持ってきてもらう。

ここに名前を書いてもらったら見てもらえますと、言われるがまま目線をやると、和菓子の横に御土居に入るための名簿が鎮座しているではないか。なんでも、京都市から委託を受け御土居の管理人をされているそうで、一見普通の和菓子屋さんで、御土居ワードを言うと鍵を渡され、自ら鍵を開けて遺構である御土居に足を踏み入れる。という流れが、ドラクエの世界線にいるようで、テンションが上がった。

裏通りに入ると、昭和後期に開発された建売住宅が並んでいる。結構アップダウンが激しいが、近くに山が見える昭和の家の風景は、案外マッチしていて愛しさすら感じる。
一方、表通りには、昔からある立派な農家住宅、それに併設されたビニールハウスのある広大な畑が続く。農家住宅の何軒かの門には、表札とは違う名前が書いてある。お店でもなさそうなので、昔から日本の農村にある、どの家かを示す屋号が書かれているのだと思われる。一見、暗号のようで、これもクエストのひとつなのかと疑ってしまう。

一度、まちで予想外の展開に遭遇すると、目に入るもの全てに試されているような心持ちがして、以前とはまちの見え方が変わってくるからたまらない。

岸本千佳セレクト 鷹峯に住むならこんな物件

バルコニーのある戸建て暮らし

鷹峯・玄琢は車を所有していると行動範囲が広がりそうな場所ですし、駐車場付きの一戸建ては、通勤にも便利。
室内はリフォームがなされているので、気になる箇所のみ自分仕様に、変えてみましょう。突き出しの広い南向きバルコニーは、洗濯物干し場以外に、プールや日光浴の場、セカンドリビングとして使うと良さそうです。

物件情報

所在地:京都府京都市北区鷹峯黒門町
販売価格:1,280万円(2024年3月時点)
土地面積:52.38㎡/15.84坪
建物面積:39.48㎡/11.94坪
築年月:1970年 3月 
アクセス:京都市営烏丸線「北大路」駅 バス17分 「土天井町」 停歩3分
     山陰本線「二条」駅 バス26分 「土天井町」 停歩3分
https://x.gd/HVQnA
※ 物件情報は記事作成当時のものです。売却済みの場合がございますのでご了承ください。
※ 各種法令上のことについては専門家にご相談ください。活用・改修に際しては、専門家と相談して適切に行ってください。

鷹峯学区に住む方に聞いた、鷹峯暮らしのホンネ

Aさん(40代/女性/お子さんは小6)
鷹峯の辺りの標高はちょうど京都タワーと同じくらいなのでなんと言っても景色がいい。鷹峯小学校の6年生の教室からは京都市内を一望できるんですよ。子どもたちに人気なのは鷹峯公園と紙屋川のあたり。特に川の周辺は夏も涼しくて、どんぐり拾いの名所なんです。

Bさん(30代/女性)
このあたりで桜の隠れた名所といえば原谷苑ですが、やはり御土居のところの桜を毎年楽しみにしています。春だけではなくて、新緑や紅葉など季節の移り変わりを堪能できる散歩道が最高。仕事で煮詰まった時や一息つきたいときは散歩に出かけます。たまに出会える秋田犬のアキちゃんの散歩風景も癒しのひとつですね。

Cさん(30代/男性)
お気に入りのパン屋さんや和菓子屋さんもあるんですが、イタリア料理店「フクムラ」の福村さんの「フクムラ山の家」で開かれる日曜市はいつも楽しみにしています。京都市内を一望できる場所でマルシェが開かれて、いい景色と美味しいご飯を楽しむひとときがご褒美なんですよね。

岸本千佳

不動産プランナー/株式会社アッドスパイス代表取締役

岸本千佳

1985年京都府生まれ。滋賀県立大学環境建築デザイン学科卒業後、東京の不動産ベンチャーで働いた後、京都でアッドスパイスを設立。不動産の企画・設計・仲介・管理を一貫して担うことで、時勢を捉えた建物と街のプロデュースを行う。京都芸術大学非常勤講師。著書に、『もし京都が東京だったらマップ』(イースト新書)、『不動産プランナー流建築リノベーション』(学芸出版社)。

2024年8月8日に岸本千佳さんがご逝去されました。プロジェクトチームとしてご冥福をお祈りします。

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原稿執筆:岸本千佳

企画・編集:合同会社バンクトゥ 光川貴浩、窪田令亜

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