「課題」としての空き家をどのように新たな価値へつなげていくか?《後編》

一見、マイナスに感じられる地域の特性を逆手に取ったり、新たなまちの魅力を再発見したりすることで、空き家利活用に結びつける取組が多く見られた今回の視察。福井県鯖江市、長崎県東彼杵町、長野県の視察を中心に振り返った《前編》に続いて、《後編》では群馬県桐生市、東京都杉並区、福岡県糸島市の視察を中心に意見交換を行いました。はたして、京都の特性を生かした空き家利活用につながるヒントは見つかったのでしょうか。

INDEX

テーマ「人」と「伝達」

まちの不動産屋さんがまちづくりの核に 〜群馬県桐生市編〜

お節介好きな人とカフェが生む相乗効果

光川

後半は群馬県桐生市の取組から振り返りましょう。桐生市はもともと織物産業が盛んで「西の西陣、東の桐生」と呼ばれていた地域ですね。

池垣

訪問先は桐生市で不動産事業を営まれている「株式会社アンカー」の社長・川口さんと妻の雅子さん、それから川口さんが糸加工販売業の川村さんと共同で出資しているまちづくり会社「UNIT KIRYU株式会社」のみなさんにお話を聞いたんですが、皆さんの熱量がすごかったんですよ。

榊原

代表の川口さんはものすごくエネルギーがある方で、雅子さんは「PLUS+アンカー」という古民家カフェの代表をしながら地域のプラットフォームとして活動されていました。カフェで地域の情報を収集して、初めて来た人にも「それならあそこのあの人がいいんじゃない?」という感じで意識的に人と人をつなげる。本当に人が主役で、人が動いた先に物件の活用が生まれることを理念としてやっておられて。さらに「UNIT KIRYU株式会社」と群馬県との官民連携で「コミンカコナイカ事業」をされているところがポイントだと思います。民間で動いていると不審がられるし、ある程度公の看板がないと信頼してもらえないという話は《前編》でもありましたが、それを官民連携という形でクリアしようとしている取組です。まだ成果自体はあまり出てないようでしたが、自治体の方をはじめ、関わっているプレイヤーの皆さんが空き家問題を自分ごととして取り組んでいて、「官民連携」は言葉だけじゃないと感じました。

井口

桐生では、不動産事業者自身がまちづくりをやっているのが特徴なんです。川口さんはもともと地元の方で、一度東京に出てから戻って来られた。不動産業者が単に中古住宅の空き家を商売にするのではなく、桐生をよくするために、まちづくりを行う。この視点の持っていき方が他と違うところかと思います。まちづくりの視点で、桐生の特性や今必要なものが何かを知っておられる。その結果、例えば、空き家にIT企業を引っ張ってきたり、おしゃれなブティックがお店を出したりと、コアなお客さんを集められる店ができた。桐生のまちに成功体験が蓄積され、市政やまちづくりに精通している人たちがいるので、これからの展開にすごく注目です。

池垣

「PLUS+アンカー」は単なるカフェではなくて、“まちのお節介な世話役さん”みたいな存在でしたよね。いざ移住となると身構えてしまう人もいると思いますが、移住者の気持ちをうまくほぐすようなデザインがされているのがすごく印象的で。移住者の支援を行うのは必ずしも行政ではなくて、その地域で何かあったらすぐ助けてくれるお母さん・お父さん的な存在というか、ご本人は「地域のインフルエンサー」って言ってはりましけど、そういう存在が欠かせないと思いました。

光川

不動産営業の窓口としてではなくて新しい接点としてのカフェなんですね。

井口

雅子さんは初対面の人にも気軽に声をかけ、お話を聞き、たくさんお喋りもしてくださる。ある意味で、おせっかいを焼くのが好きな方なんですよ。

榊原

雅子さんを中心としたいい意味での井戸端会議のような場所で、地元の人もよく来てましたよね。我々が行ったときも、常に人が途切れずにいて、夕方近くになると食材を持ってくる人がいたり。

光川

地元の人たちとの交流があるのも重要ですね。「どこどこに空き家がある」というようなまちの情報が入ってきて、それが営業や商品づくりに生かされている。

井口

そうですね。桐生以外から雅子さんを訪ねてくるルートのようなものができていて、桐生のおすすめを教える観光案内のような機能を果たしているんです。だから、訪ねてきた人たちは、不動産屋さんが運営するカフェと思っていない気がします。

光川

「あそこいい感じだし行ってみたら?」というコミュニケーションが最終的に不動産に着地していくような感じですね。本業の事業体と切り離されている感が重要ですね。

榊原

「PLUS+アンカー」は若い人たちが多いんですよ。そもそも「PLUS+アンカー」が入っている商店街自体、入っているテナントさんのクオリティが、物販企業問わずすごく高い。

井口

川口さんご夫妻の求心力が強いから活性化するんでしょうね。

望月

ただ、次の代とかになったときにどうなるのかな。すでに入っているテナントさんのクオリティが高いからその人たちが新たな求心力を持っていくんでしょうか。

井口

今後は、元々あった繊維産業を復活させようという動きもあります。優れた企業や人材を引っ張って来ているので、これで終わりにはならないんじゃないかな。それぞれの店舗にまた人が集まって、それを機会に見直してまた集まって、という好循環が生まれるように思います。

榊原

着火剤だけが燃え盛っているフェーズはもう過ぎて、ちゃんと本当にキャンプファイヤーになる流れができている印象を受けます。テナントとして入っている人たちのなかから、また窓口になるようなことをする人が出るんじゃないかな。

池垣

テナントに入った人同士のつながりもあって、共同でイベントもやっているようですね。大阪から来たアパレル業を営む方がおられましたが、なんとアトリエの半分で趣味のボードゲームカフェを展開していて、地域の子どもたちが来て遊んでました。桐生出身ではない彼が桐生のことを熱く語っていたのが印象的でした。

榊原

自分ごとになっているんでしょうね。

「全庁横串」で取り組む空き家問題と移住者サポート

光川

桐生の古民家というのは、いわゆる築百年以上の古い建物なのか、それとも我々が対象とするような昭和の物件なんでしょうか。

井口

基本的には大半が商店街での取組で、商店街の南東の一角が今盛り上がっている状態。桐生駅までの道には、商店街がたくさんあるので、今後まだまだ広がる余地はあるのかな。それと、空き物件は、売買ではなく、賃貸で活用されているのも特徴的です。

池垣

そこで「株式会社アンカー」が仲介を担ってるんですね。で、アンカーと切り離せないのがやっぱり官民連携の「コミンカコナイカ事業」かな。この事業は、群馬県の若手職員が知事にプレゼンをして決まった事業なんだそう。県は古民家がどこにあるのか把握しているわけではなかったため、各自治体に聞く前に、不動産事業者のデータベースをもとに展開していこうとなって、その最初の連携先がアンカーだったそうです。川口さん曰く「癒着しない官民連携の時代」だと。これはすごく重要で、言い得て妙な言葉だと思います。原動力のある民間と、信頼できる行政とが連携する、そこのバランスがうまく取れていると思いました。

渡邊

行政側としては補助金政策といったシステムの方がつくりやすいし、受ける側もわかりやすいのですぐそうしがちなんですけど、補助金に頼りきらないやり方にも可能性があるように思います。

井口

視察先全般に言えることですが、あまり補助金や行政を頼りにしていない印象です。だからこそ成功しているのかもしれませんね。行政は途中で予算がなくなったら補助金を打ち切る。そうすると、そのままたち消えになってしまうことが多い。補助金に頼らない枠組みをつくっているからこそ強いのかもしれないですね。

池垣

鯖江の「RENEW」も行政からの補助金をもらっていないとのことで、あまり当てにしていないところが成功しているのかも。民間と行政のバランスというか、そのシステムがすごく大事で。群馬県もそういう意味では先進的なことをされているんでしょうね。ちなみに群馬県の空き家対策では「全庁横串」という言葉が印象的でした。子育てにしても保育にしても福祉にしてもまず建物・箱物が必要やけど、その箱物探しは県の空き家対策の部署で協力しますよ、という姿勢でやっている。そこも大事な視点のように思います。

光川

高崎市で発行されているA3サイズの移住者向けパンフレットが見やすくて、なぜ見やすいのかを考えたんですが、A3用紙の裏表にいろんな情報が詰まっているんですね。例えば子育て情報だと、1時間いくらで託児サービスがあるといった情報がパッケージでまとめられていたんですよ。いくつかの課が横串にされているからああいうパンフレットができるんだと思いました。住民側からすると、空き家単体のパンフレットが欲しいんじゃなくて、子育て情報も欲しいし、移住に関する補助の情報も欲しいわけで、そこがうまくできているから見やすかったのかなと。

井口

横同士の組織のつながり、関係が良くて、みんないっしょに移住のためにやっているという意識を強く感じましたね。

戸倉

A3パンフレットの中に入り切るように、情報の選択と集中がされているんですね。市では市民に向けて様々な支援制度がありますけど、部署ごと、事業ごとという括りで、しかも伝えたいことを全部書いて結局見にくくなってしまう。各ターゲットに向けて、分かりやすく情報をキュレーションした印刷物やサイトが求められますね。市内部での横の連携ももっと図っていかなければ。

池垣

高崎市では空き家対策の助成制度に国の補助金は投入せず、市独自で制度設計し、申請書類を少なくしてスピード感重視の政策を行っているというのもかなり印象的でした。

榊原

慎重になるよりも「困っている人をちゃんとサポートすること」を優先しているんですね。

まとめクロストーク

光川

今回のプロジェクトは、「人」「価値」「表現(情報)」「伝達」という4つの方向から京都の特性を生かした空き家利活用のあり方を構築していこうというものです。最後に、空き家利活用に結びつくようなアクションの話をして、今後へのヒントにしていきましょうか。

榊原

東京都杉並区の「小杉湯となり」について、株式会社銭湯ぐらしの加藤優一さんに話を聞きましたが、空き家物件を持っている人たちの相談会もやっていて、困っているオーナーさん側の課題発見、課題解決を中心にしながら相談会を行っているところが、空き家対策のポイントになっているのかなと。片方でネットワークをつくっておいて、片方で課題の発見と解決を掛け合わせで行っている。その中心に銭湯があって、やっぱり重要なのは「人」だという結論になりました。

戸倉

長野の場合は住みたい人向けの見学ツアーですが、空き家問題を抱えた家主さんたちにアプローチして、家主さんたちが一緒に空き家勉強会をされているそうです。実際にまち歩きをして「うちの空き家はこんなんです」と紹介し、最後にみんなで感想を話し合い総括されているそう。

光川

「小杉湯」の近くにある風呂なしアパートについて、入浴券付きで家賃5〜6万円程度で入居者を募集したところ、定員3人に対して50件の問い合わせがあったという情報もあります。これは京都の特性を生かした空き家利活用にも応用できそうですね。

望月

シャワー室や小さなお風呂しかないような狭小住宅と、銭湯をかけ合わせたら楽しいでしょうね。ご高齢の方で、家にお風呂があっても銭湯へ行く人もいらっしゃるし、その辺が噛み合ったらおもしろいなと。

榊原

こうした取組は、「伝達」を考える上でも重要なヒントになりそうです。紙かウェブというだけでなく、物理的な“場”も大事だということにもなりますね。

池垣

あとは長崎県の東彼杵のように、空き家のリノベーションを移住者が手伝うというのも、人から人へのつながりであり「伝達」になるのかな。

榊原

そういうところは結構「価値」と結びついているように思います。その人がどういう人で、どういうことをよしとするか、というところと「伝達」の部分が密接に絡んでいると。

光川

しかもその結びつき方はネガティブではないんですね。「空き家問題」というと、ネガティブな問題の解消を目指す形になると思うんですけど、その認識自体が変容していて、空き家をポテンシャルを秘めた存在だと捉えられるようになっている。銭湯などが空き家と結びつくことで、もはや「問題」ではなく「価値」に変わっているところが非常にポイントになると思いました。

榊原

他にも、福岡県糸島市前原(まえばる)商店街のキーパーソンである後原(せどはら)さんが、シャッター街になっていた前原商店街の人に「ちょっと開けてみない?」と声をかけてシャッターを開けてもらった、というお話もありましたね。そして何かしてみたいという人たちに「ここで何かやってみよう!」とどんどん出店してもらっている。本人曰く「強制まちづくり」とのことですが、こうした取組も、「人」や「価値」を考える上で鍵になりそうです。

松倉

イベントをするからとりあえずシャッターを開けてもらって。開けたら人が来るので、住人のおじいちゃんおばあちゃんと若い人が話をするんですけど、「素敵な空間ですね」「何かここでやらせてもらってもいいですか」と。とにかく「開けるだけ」というのを徹底してやってるのがすごいなと思います。たったそれだけなんですけど。

光川

イベントの日にシャッターが閉まっていたらそれだけで移住する気が失せますもんね。

榊原

ここまで事例で見られたのは、出店の本気度を確かめてから出店してもらったとか、人の動きをつくって物件の活用につなげたとかですけど、前原商店街は逆に出店のハードルをどんどん下げることで、「やってみたい」という人を空き家に振り分けていく感じ。

松倉

それでいて計画的なんですよね。この区画にこの順番で、って感じで広げていく。

戸倉

移住者がやり出した「いと会」というゆるい飲み会が月一で開催されていて、その出席者がどんどん増えていった結果、「おもしろいことをやってる」という雰囲気が醸成されていったそうです。人が人を呼ぶ、ゆるいコミュニティが形成されていったと。これまで、まちづくりといえば、行政、建築や不動産の専門家や、地域の方々が集まって考える、というのが我々のイメージするところでしたが、「なんかこの人おもしろいやん」「おもしろいことやってそうやし、ちょっとのぞいてみようかな」という雰囲気からコミュニティが形成されてきたことを知り、これがこれからの新しいまちづくりなのかもと感じました。

井口

今日の座談会のなかで、「空き家対策とはちょっと外れるんですけど」と前置きしての話題が複数回ありましたが、京都市が先進的に取り組んできた既存の空き家対策のくくりを一度外して、移住/定住とかまちづくりという視点で今、我々に何ができるのかを考えて、それを上手に価値あるものと発信していくようにしないといけない。意識しないと、知らない間に、議論の幅を狭めてしまうのではないかと思いました。

光川

問題解決のためのリサーチというやり方がもう古いのかもしれないですね。ポテンシャルを導きだすためのリサーチの方が圧倒的に価値がある気がします。

榊原

視野を広げて考えたうえで後から空き家対策に結びつけるくらいのやり方がいいかもしれないですね。

松倉

空き家問題を解決するために、その周辺にある部分への模索が始まっていると。

榊原

今日はむしろその話ができた気がしています。

望月

中古住宅の最大の利点は、住みたいところに住める点だと思うんです。愛してやまない銭湯があるとか、お気に入りのカフェがあるとか、あとは保育園や小学校のような教育環境も関わってきますよね。寝に帰る場所というだけじゃなくて、何かそこにコミュニケーションの土壌というか、新たな「ゆかり」が生まれるのりしろがあること。それが空き家をなくすための一歩。逆にいうとコミュニケーションがなくなっていくことで空き家が増えていくのかなと思います。

榊原

すごく共感します。鯖江の事例でいうと、喫茶店がすごく好きになって、その近くに住みたいと思う、それが鯖江と自分をつなぐ「ゆかり」となって鯖江への移住を検討しはじめる、というケースもあり得そうですよね。そういう「ゆかり」の余地が大なり小なりあることで、空き家の活用が促進されるという部分は絶対にあると思うので。

井口

あとはまちづくりを進めるときには、デザインを描いてみんなに見てもらい共感を広げていくと本当にスムーズに進んでいたと思います。そのためには、おもしろいデザインを描いてみんなを巻き込む力が大事だと思いました。

榊原

共有や共感は大事ですね。

望月

一緒に食べるオードブルミーティングも銭湯も「共有」です。共有の場はみんなが気持ちよく使うという意識があるので、まちを共有空間と捉えれば、空き家問題の解決も自分ごとになるんじゃないかと思います。まちの価値が下がると地価も下がるし、自分のもつ資産(不動産)の価値も下がる。まちの価値が上がると資産価値も上がる。その辺をうまくマインドチェンジしていくための伝達方法が必要ですね。

井口

それと、熱量のある人を育てる必要もあると思うんです。活発に動ける中高年層は、会社勤めで家を空けている時間が長い。当然、まちのために熱量を発揮する機会も少なくなります。そういう意味で、自営業をしている層が核になっていくと思うし、そういう層の拠点となる店舗をつくれる場所があれば、大きな意義をもつのかなと。

光川

それはいい視点ですよね。確かに職住近接状態で地域に骨を埋めている人と、外に働きに行っている人とは本気度が全然違いますよね。

榊原

「やるぞー」みたいな感じの熱量が高すぎると、それはそれでしんどい。本当になにかいい温度感を保って、そこでお店を始めたりその近くに住んでたりする、ゆかりみたいなものがうまくデザインされていると思いますね。

戸倉

そこも含めてのデザインですよね。今回の検討における4軸「人」「価値」「表現(情報)」「伝達」の根底(縦軸)とつながり(横軸)において、プロセスを含めたデザインが求められるように思います。

前後編にわたってお届けしたプロジェクトメンバーによる視察・ヒアリング事例の振り返りと、京都の特性を生かした空き家利活用へのヒント発見に向けたクロストーク。これらの内容をもとに、令和5年11月11日、視察・ヒアリングで訪れた方々とともに空き家の利活用を考えるイベント「京都空家会議-KYOTO DIG HOME SUMMIT」を開催しました。次回記事では、イベントの模様をレポート形式でご紹介。イベントレポート公開後は、空き家利活用の具体的な検討へと議論は続きます。今回の記事、そして今後の記事について、ぜひみなさんのご感想をお聞かせください。

※本記事は、令和4年度の視察をもとに、プロジェクトメンバーが独自に振り返り座談会を行った内容をまとめたものです。当時の情報をもとにしているため、言及した取組の最新状況とは異なる場合があります。

credit:

企画編集:KyotoDigHomeProjectチーム

執筆:河合篤子

撮影:川嶋克

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