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「住まい方から決められる」中古住宅(ユーズドハウス)での子育て

空き家に自分らしく住むための物件取得の経緯やリノベーションの手法など、具体的な金額までぶっちゃけトークする「空き家居住学」。今回のテーマは「子育て」です。
 
中古住宅(ユーズドハウス)を選ぶとき、ひとつ気になるのは子どもとの生活です。間取りは子育てに合っているか、広さは十分か、周辺環境はどうか……考えはじめるとキリがありません。
 
今回ご紹介するのは、中古住宅を活かし、自分たちらしい住まい方、そして子育てを実践している方々。駐車場がない、狭い等々、子育てに不向きととらえられかねない環境にもかかわらず、家族で魅力的な生活を送っています。
 
物件との出会い方、DIYやリノベーションで工夫したこと、実際にこれまでの子育てを振り返ってみて、いま感じていること……。中古住宅の活用術や、その魅力をお伝えしていきます。

INDEX

鹿ヶ谷エリアで子育てしながら住み替えを経験された井口さん・山崎さんご一家の場合

まずお話をうかがったのは、大学生の長男(現在一人暮らし中)、中学生の次男、そして小学生の長女と、鹿ヶ谷の路地奥にある延べ床面積100㎡程の2階建て物件に住む、井口夏実さん、山崎泰寛さんご夫妻。

子育てをしながら近隣で住み替えを経験されてきたお二人に、これまでの物件と中古住宅での子育てについておたずねしました。


——現在にいたるまで、どんな物件に住まわれましたか?

井口さん

私は2000年に京都で就職して、1年目は南区で一人暮らしだったのですが、次の年に妹と一緒に住むために賃貸の一軒家を探しました。見つかったのが現在の住まいから徒歩圏内にある物件で、3階建て、延べ床面積76㎡、家賃は月7.5万円でした。

妹が結婚して出ていった後、山崎さんとシェアすることになり、子育てもここから始めました。その後、大家さんがご高齢で「この物件を売りたい」となり、不動産屋さんが周囲にチラシを配りはじめちゃったんです。

山崎さん

2005年のことで、前年に長男が生まれていました。まさか買えるとは想像していなくて、勝手に何千万円もかかるだろうと思い込んで、端から諦めていたんです。でもチラシを見てみると販売価格が1,450万円と、手の届く範囲だとわかりました。物件を気に入っていたし、これは買うべきだなと。ただ、僕はそのときフリーランスで、金銭的に余裕のない時期でした。

ちなみに、チラシが配られたタイミングで、購入予定の不動産屋さんの内見に大家さんと立ち会ったんですが、その人の印象が良くなくて……。大好きな我が家をこんな人に買われたくない!と思ったのを覚えています。大家さんも同じ思いだったようで、最終的な売買も仲介を通さず、法務局に相談しながら一緒に契約書をつくったほど。

左、山崎さん、右、井口さん

井口さん

私もまだ就職して4年目でかつ育休中。年収もたしか400万円台で、ローンを組めるのかどうか分かりませんでした。ただ当時は本当に運良く地元の信用金庫がローンを組ませてくださったので、それで購入し、賃貸時代の家賃ぐらいの金額をコツコツ返していきました。

3階建て一軒家での子育て

——その最初の住まいはどんな物件だったんですか?

井口さん

当時で築20年くらいの物件でした。1階が半地下になっていて、風呂トイレなど水回りと10畳の1室。2階に12畳のリビング・ダイニング・キッチン、そして3階にも6畳の1室という間取りでした。子どもが生まれる前は1階と3階が夫と私それぞれの部屋で、2階が共用部、シェアハウスとしてはとても使いやすかったです。長男の出産後は2階で子育てして、寝るときはみんなで3階でしたね。

山崎さん

1階は主に僕の仕事部屋でした。

最初の物件の販売時のチラシ

——3階建てでは上り下りが多く、子育ても大変だったんじゃないですか?

山崎さん

当時は大変だったはずなんですけど、あんまり覚えてなくて。子どもを風呂に入れるときには一緒に1階に降りて、寝るときには子どもを抱えて3階まで移動していたんですが、子どもはまだ小さくて軽かったし、われわれも30歳そこそこで若かったのでほとんど気にしてなかったですね。

井口さん

階段は降り口にドアがあったので、安心でしたしね。その後も2009年に次男が生まれて、長男と同じくこの家の2階のリビングで育てました。着替えなどの荷物は3階や階段にスペースをつくって置いていました。ご近所とも仲が良かったし、夏は山からの風が気持ちよく、快適で気に入っていました。

山崎さん

子どものおもちゃや絵本などはほぼ全部2階に詰め込んでいたんですけど、そこまで狭さも感じなかったなあ。なぜか2階だけ天井が高い家だったので、そのおかげかもしれません。

——保育園や小学校は? お仕事と子育てはどう両立・分担されていたんでしょうか。

山崎さん

保育園は3人とも百万遍あたりの同じ園で、小学校も近くの公立に通っています。送り迎えの必要な保育園時代が一番大変でしたが、親同士で仲良くなって今でも情報交換することもあります。今思えば楽しかったですね。

両立や分担については今でもそうですが、仕事はお互いのスケジュールを共有しながら、それぞれの出張や残業を入れていきます。そもそも二人とも出張・残業が好きではないので、あまり争いにはなりません(笑)。家事もあまりはっきりとは分担せず、得意な方をやりながら基本的には半々で。もう20年もやっているので……お互いできることをどんどん片付けるようにしています。

現在の物件への住み替えについて

——そこから現在の物件にはどういう経緯で?

井口さん

子どもも2人になって、このまま最初の家を改修して住み続けるか、別の物件を探すか、結構悩みました。実際、郊外の大原や美山、府外の滋賀にも物件を探しにいきましたね。

山崎さん

しかも僕が大学院の社会人博士コースに入学し直して、2007年に就職した会社を2012年に辞めたりして。金銭的にも精神的にも余裕がなく、最初の家を改修するというアイデアを中断した時期もありました。

井口さん

その後「やっぱり近所で探そう」ということだけは決まったのですが、なかなか良い物件が出てこず、最終的に最初の家に住みながら「もう一室あれば大丈夫かも」と考えて、近所の40㎡くらいのマンションを買ったりもしたんです。

山崎さん

そこは住まいというよりも仕事部屋を想定していました。書斎にしていた1階の空間を外に出せば居住空間が確保できると。ただ、マンション購入とほぼ同じタイミングで、今の物件が見つかったんです。ですので、結局住み替えまでの仮住まいとして使いました。

井口さん

長女が生まれて1歳半になるまで、1LDKの部屋に5人でぎゅうぎゅう詰めになって暮らしていました。今となっては信じられませんが、1〜2年という期間限定で子どもたちも小さかったですし、いい思い出です。

自宅の近くにある哲学の道

——今の住まいはどうやって見つけたんですか?

井口さん

エリアと予算と広さを指定して、1年くらい不動産サイト「アットホーム」を検索していました。検索条件は「左京区」で「3,000万円以内」、そして「90㎡以上」の3つです。エリア的になかなか90㎡以上の物件がなかったんです。見つかったのは2014年で、当時2,500万円でした。ちょうど長女が生まれた時期でしたね。

——鹿ケ谷エリアの魅力は?

山崎さん

幹線道路から離れた静けさですね。そのわりに街中にも自転車でいける距離。まわりの家も落ち着いたお宅が多いし、スーパーも近い。山が近いからか夏でも朝晩は比較的涼しいです。

ただ、車があまり通らないがゆえに静かなのですが、逆にいうと自宅に車を停めるスペースがありません。私たちの場合は当初は駐車場を借りました。今はカーシェアを活用しています。

「限られた予算なので、できるだけ家のリノベーションに使いたかった」

——新築の購入は考えませんでしたか?

井口さん

新築のための土地探しは考えていなかったんです。限られた予算なので、できるだけ家のリノベーションに使いたかったんです。新築一戸建のようなメジャーなマーケットでの買い物は「割高だな……」という考えがどうしてもあって。

——中古住宅の購入はどうされたんですか?

井口さん

お金はとにかくかき集めたという感じで(笑)。町家ローンも希望したのですが当時の銀行には、「左京区には『町家』は存在しないので、町家ローンは使えません」と断られてしまいました。結局三井住友トラスト・ローン&ファイナンスの、利率3.9パーセントというかなり高利のローンを組みました。

山崎さん

そのとき僕は会社をやめて再度フリーランスの立場だったので、自宅の一部を使って事業をおこなうために日本政策金融公庫の融資を取得しました。これはとても助かりましたね。

井口さん

物件はなんとか買えたものの、3.9%のローンの返済に充てようと思っていた最初の家がなかなか売れなくて……。改修するためにはさらに資金がいりますし……その時期はかなり切迫感がありましたね。

(その後、最近になって複数のローンは銀行で借り換えができました。この物件の仲介をお願いしたIYEYAさんの担当者さんが推薦してくれたんです。状況が変わってきたんですね。)

山崎さん

その後、2015年に最初の家が売れました。内装や庭を改修していたおかげか、買ったときより少しだけ高く売れました。

路地奥にある現在の物件

——現在の物件はもともとはどんな間取りでしたか?

山崎さん

1階にキッチンとリビング、水回り。2階には2〜3部屋の居室という、再建築不可の路地奥物件ですね。ただ、奥まっているおかげで西側以外の方角すべてに窓があったんです。西陽を避けながら日当たりがいいというすごく珍しい条件でした。

3人の子育てと改修の方針について

——どういう改修の方針だったんですか?

井口さん

私たちは共働きなので、家に居るあいだはなるべく子どもと一緒にいる時間をつくりたくて、迷いながら結局、子ども部屋はつくりませんでした。それに、子どもはゆくゆくは家から出ていくので。長男は大学に入って家を出ましたが、下の子たちもいずれ自立します。その時にみんなの個室が空っぽになって残ることがないようにしたかったんです。

それと、そもそも再建築不可でしたから、安心して住み続けるためにも、断熱と耐震にはお金をかけました。京都市の補助金も活用しました。

2階のリビング・ダイニング・キッチンスペース。本棚の奥に2人分の子どもスペースがある

——改修はどのように進めましたか?

井口さん

改修は以前、ご近所に居られて、長く親しくさせていただいていた森田一弥さんに設計していただきました。リビング、ダイニング、キッチンが2階のメインで、2人分の子どもスペースがリビングにくっつくようにしてあります。仕切られていないとはいえ、プライベートな空間なので大人が勝手に入らないようにしています。このスペースは良い空間なので、子どもが出ていったら私たちで使いたいとも考えています。

ただ、子どもが年頃になる時のために、1階に個室をひとつつくっています。つくったものの、結局長男は自分専用の個室としては使わず……今は親の作業スペースになっていますね。1階は他にお風呂やトイレ、収納、寝室があります。

1階のサンルーム。奥にある右側の扉が唯一の個室
1階にある個室。一人になりたい子どもや大人の作業スペース
玄関入ってすぐのところに寝室。ベッド3台を並べて5人で雑魚寝

山崎さん

長男がこの家にいる間、寝室はベッド3台で5人が寝ていました。長男や次男が気ままに個室で寝ていた時期もありましたが、結局上の子は19歳で家を出るまでこのベッドで寝てましたね。夏でもエアコンがいらないぐらい涼しい寝室だったのが幸いしました。

あと子育てという観点で言うと、この家に住み始めるころは長女がまだ小さかったので、最初に提案された洗面台が浅いシンクだったことが気になり、工事費の減額調整のタイミングで学校の理科室のような深いシンクに変えてもらいました。逆に減額調整を繰り返すことで、この家を考える解像度がさらに高くなったかも。

洗面所のシンク。娘さんが小さいころはここで沐浴されていたそう

中古住宅は「住まい方から決められる」

——もちろんまだ子育ての最中ですが、これまでを振り返ってみて、お子さんにとってはどうだったと思いますか?

ダイニングテーブルの下は絵本やおもちゃが入る。子どもたちにとっては自分たちの居場所になっていた

井口さん

子どもたちには前に住んでいた家の方が評判いいんですよね(笑)。今より狭い家だったのに「みんなでごちゃごちゃ暮らしていて楽しかった」と。

山崎さん

こうやって柔軟に住み替えられたのも、マンションも含めてそれぞれが中古住宅だったからかもしれません。とりわけ新築の建売住宅は住み方があらかじめ決まっている気がします。

一方で中古住宅は、同じ予算なら家そのものにお金をかけられる分、リノベーションで間取りはどうにでもなりますし、子育ても含めて「住まい方から決められる」。壁や柱に傷がついたところで、「もともと傷ついてたしな」と気にならない。

子育ても気楽にやった方が楽しいと思いますが、中古住宅も同じようにゆっくりおおらかに構えられるところがあるのかもしれません。

玄関をあがったところにある本棚。家族の共有になっています

井口さん、山崎さんご家族の子育て、いかがでしたか?

取材に同席してくれた小学生の娘さんにこの家でどこが好きかを尋ねると、「寝室」と答えてくれました。「居心地がいい」とのこと。ダイニングスペースのテーブルに座り、タブレットで映像を観ながらくつろいでいる姿が印象的でした。

どうしても「子育て」となると肩肘をはってしまいますが、お二人のお話を聞いていると、どんな環境でも工夫次第でよりよく住まうことができるのでは、という気持ちが湧いてきます。

ここで、もう一家族の場合について見ていきましょう。


延べ床面積50㎡未満で2人の子育てを経験したIさんご一家の場合

Kyoto Dig Home Projectプロジェクトメンバーの中にも、中古住宅での子育てを経験した方がいます。娘さん2人を中古住宅で育てられた、京都市役所のIさんにお話を聞きました。

——物件の概要とそこでどうお子さんを育てられたのか教えてください。


昭和52年築(購入当時築25年)
購入費:1,200万
改修費:300万(大工さん+DIY)
敷地面積:45.11㎡、延床面積:47.11㎡
居住期間:2002年~2015年の13年間居住後、現在は別の中古住宅に住み替え


間取り図。下1階、上2階


各部屋がそれぞれ小さいので、ベッドやダイニングテーブルで部屋がパンパンといった具合でした。収納スペースもほとんどなく、季節外れの衣類は市内の夫の実家の押し入れに持って行くといった、季節ごとの大掛かりな衣替えが必要でした。

娘2人は小学校高学年までこの家で育ちました。娘たちが生まれる以前は、寝室としていた部屋以外、用途は決めずフリーに使っていましたが、子供が大きくなるにつれ、日中はほぼ1階で過ごすことが多くなりました。乳幼児の時は家族4人で和室で寝ていましたが、上の子が3歳になったころから2階の洋室を親の寝室、和室を子供部屋としました。


——なぜ中古住宅を購入したのですか?


夫の仕事の都合で結婚2年目、子供がまだいない時期に京都に引っ越すことになりました。当時は具体的な生活スタイルがまだ見通せず、20代で長期のローンを組んで新築住宅やマンションを購入することが現実的でないように思ったためです。


当時の様子


——その後住み替えなどされましたか?


子供が小学生高学年になっていくにつれどんどん手狭になったため、同じ中学校区内で3~4年探しましたが見つからず……狭小地での3階建住宅に建て替えも視野に入れ始めた頃に、今の住まいと巡り合い、改修を経て長女の中学入学のタイミングで転居しました。

住み替えにより床面積も大きく日当たりも良くなって快適ですが、以前の住まいの経験があったからこそより現状に感謝できています。以前の家は購入時よりも高く売れました。


——当時こういう情報が知りたかった、というものはありますか?


道路側は日当たりが良いのですが、奥は想定以上に日当たりが悪く、1階のダイニングやキッチンは日中も照明を付ける必要がありました。改修前に自分の生活の中心となるスペースはどこになるのか、もっと考えておけば良かったと思いました。


——中古物件での子育てで大変だったところと良かったところを教えてください。


はしごのような急な階段だったため、子供を抱きながらの上り下りは常に危険を感じていました。一方で良かったところは、子供の成長やライフスタイルの変化に伴い、室内壁の漆喰への塗り替えや、一部の壁を抜いたりなど、DIYを家族みんなでイベント的に行えたことです。また、路地に面した場所だったので、町内の人との関係がとても近かったところも良かったです。密な近所付き合いを嫌がる人もいるとは思いますが、区民運動会や地蔵盆などは、娘たちにとっては特別に楽しかった思い出となり、20歳を過ぎた今でも子供時代の原風景となっているようです。


住みながら家族でDIYも経験

credit:

企画編集・執筆:榊原充大(株式会社都市機能計画室)

撮影:川嶋克

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