鴨川の近く、380万円の空き家をDIYでカフェのような居住空間に生まれ変わらせる

空き家(中古住宅)を活かし、自分らしい住まい方をしている方々を紹介する「空き家居住学」。物件との出会い方、DIYやリノベーションで工夫したこと、実際に暮らしてみて、いま感じていること……。空き家の活用術や、その魅力をお伝えしていきます。
今回紹介するのは、賀茂川河川敷まで徒歩1分という場所にあった築100年の古民家を購入し、2021年にリノベーションした小久保寧さんと熊谷弥香さん夫婦のお宅。自分たちでできる部分はDIYするという「ハーフセルフビルド」という手法でつくられた家は、そこかしこに家づくりのアイデアとヒントが詰まっています。

INDEX

プロローグ

映画やアニメのロケ地としても有名な、通称「鴨川デルタ」。鴨川デルタは、賀茂川と高野川の合流地点の三角州のこと。ユネスコの世界文化遺産に登録された下鴨神社や、その境内に広がる「糺の森」などがあり、市街地とは思えない自然豊かな癒しのスポットだ。

そんな鴨川デルタにほど近く、賀茂川から歩いて1分の住宅街である出雲路エリアの路地にあるのが、小久保さんと熊谷さんの家。

温かみのある木枠でできた大きなガラス戸を開けると、玄関も仕切りもなく、フロアがまるまるダイニングのような空間が目の前に飛び込んでくる。

玄関の入ってすぐの右手にはカーテンで仕切ることができる空間があり、ベッドルームにしている屋根裏にあがるための階段と収納スペースがある

頭上には桁に通されたパイプの上にいろんなスケートボードが置かれ、柱や壁には吊るされた自転車や椅子が。その隣は小久保さんのデスクスペース。秘密基地のようで、わくわくする一画だ。

さらにその奥では、熊谷さんが作業中。ここは熊谷さんのアトリエスペース。陶芸用の電気釜も設置されている。

そして、ふたりのワークスペース・工房の奥には、広々としたオープンキッチンとカウンター、目の前には大きなダイニングテーブルが。棚に並べられたさまざまなスパイスやお酒、吊り下げられたワイングラス、ずっしりとしたカウンター、気ままに過ごす猫……。まるで居心地の良いカフェにいるかのように、自然とくつろいだ気分になる。

キッチンの隣ではお菓子やジャム、パンなどをつくり、マルシェなどで販売したり、友人たちがお菓子を製造するシェアキッチンとしても活躍。

さらに、ガラス戸の向こうにはウッドデッキが敷かれた庭と、お風呂・トイレ・洗面など水回りが集まったスペースの入り口がある。

1フロア70平米の広さを活かした大胆なレイアウトはもちろん、古い木材と新しい木材が混在しているのに違和感なく共存している不思議さといい、懐かしさを感じるのにモダンな印象もある壁や床といい、探してもほかにはないオリジナリティに溢れた家──。しかも、歩いてすぐの場所には、観光客にも人気の出町桝形商店街や、書店とカフェを併設した映画館「出町座」などのカルチャースポットもある。京都市営地下鉄の鞍馬口駅や今出川駅にもアクセスしやすく、住環境も申し分ない。

となると、やっぱり気になるのは、物件の取得とリノベーションにかかった費用だ。

小久保さん

土地建物代が380万円で、工事費は500万円以内で済んだんじゃないでしょうか。

このロケーションと広さ、おしゃれさで土地代(古家付き)とリノベーションにかかった費用を合わせて1000万円を大きく下回るというのは普通では考えられないが、費用を抑えられた理由は、ふたりが家づくりに「DIY」を積極的に取り入れたから。

熊谷さん

かなりの部分を自分たちでつくったよね。

小久保さん

そうそう。解体からはじまって、壁に断熱材を埋め込むのも壁土を塗るのも友だちに手伝ってもらいながら自分たちでしたし、棚類も全部自作です。とにかく手間をかけて安くあげる、という。資材がいまのように高くなる前だったというのも大きいかもしれませんが。

小久保さんは空間プロデュースやエリア開発の仕事をしており、企画から設計、施工まで請け負い、自身も現場に入って大工仕事をおこなう。

一方、熊谷さんは役者業の傍ら、陶芸の道に進みはじめ勉強中。ポエトリーリーディングのユニット「Poetic Mica Drops」ではアルバムの配信を開始するなど枠にはまらず身体やアート、食を通した表現、ものづくりにかかわってきた。

しかも、ふたりは「ズ工」というユニットを組み、滋賀県にある比良山の麓で森の再生を目的とした「ズの森」というプロジェクトを進行中。カフェやイベントスペースとなる倉庫をリノベーションしたりと“場づくり”をおこなってきた。

出雲路で得た家づくりの経験をもとに、二人が取り組む「ズの森」

つくることが好きで、もとより新築建売り住宅などには興味がなかった。そんなふたりだからこそ、家を自分たちでつくるのはごく自然ななりゆきだったのかもしれない。でも、小久保さんは「すべてを自分たちでつくったわけではなくて」と話す。

小久保さん

自分たちの力ではどうにもならない部分に関しては、プロに任せました。つまり、「ハーフセルフビルド」という手法を選択しました。

自分たちでできることはDIYし、そのほかはプロが手掛ける「ハーフセルフビルド」。ここからは、小久保さんと熊谷さんがどのように物件を見つけ、さらには選択した「ハーフセルフビルド」がどんなものだったのか、具体的に見ていこう。


〈原則1〉

コストダウンを狙うなら、「再建築不可」には掘り出し物件もある

小久保さんと熊谷さんの家があるのは、市街地にありながら豊かな自然に恵まれた出雲路エリア。この“掘り出し物”といえる物件を見つけたのは、ネットの不動産検索サイトだった。

小久保さん

当初は家を買うつもりはなくて、森の中でカフェを開きたいなと思って1000万円以下の物件を探していました。だから、探していたエリアも大原とか静原とか山のほうで。でも、あまりピンとくる物件がなかったので「市街地でも一度探してみるか」と思い、鴨川沿いでエリア検索してみたら、そのときたまたま新着で出てきた物件が、70平米(古家付き)で380万円という衝撃の値段だったんです。

家から歩いて1分のところにある賀茂川。この環境の良さもあり、「出雲路には最近、若いカップルや海外の人が増えてきている」と小久保さん。京都にこんな穴場エリアが残っていたことに驚く

この家は、路地の奥にあって、建築基準法上の道路に敷地が2メートル以上接していない、いわゆる「再建築不可」物件。「再建築不可」の土地でも、ある程度は既存の建物をリノベーションすることはできるし、原則、建て替えや新築ができない分、価格が通常より大幅に安い。新築にこだわらず「とにかく低価格で家を」と考えている人は、「再建築不可」を狙うのもひとつの方法かもしれない。

ただ、小久保さんが見つけたこの物件は、「再建築不可」という条件を差し引いても、破格の安さ。小久保さんは「すでに3組から問い合わせがきている」と聞くやいなや、「買います」と即決した。

物件は築100年以上経っていて、古民家というより荒屋(あばらや)の状態だったが、ふたりでリノベーションすることを念頭に置いていたため、何の不安もなかったという。パートナーの熊谷さんには少し迷いがあったと話すが、これも「結婚して2年目で、お金のこともあるし、家を買うのはまだ早いかな」という理由からで、物件そのものに対する不安ではなかった。

熊谷さん

普段から物件をたくさん見てリサーチしているし、大丈夫だろうと。物件を見たときも、「あ、100年も経ってるんだ」みたいな感じで、全然抵抗感はなかった。それよりも、これからどう変わっていくのだろうというわくわく感のほうが大きかったかな。

カフェにする計画は最終的に事情があってあきらめたものの、ふたりでリノベーションをして新居にすることに決めた小久保さんと熊谷さん。ちょうど物件を取得したあと、新型コロナの感染拡大により、「ステイホーム」が呼びかけられはじめた。

小久保さん

お互いコロナで仕事がストップしてしまって。時間もあるし「体を動かそうか」となって、ふたりで解体をはじめたんです。

解体時の家の中の様子。改修工事にあたり、京都市の補助金を申請するのに築年数が不明だったため、100年前の航空写真を確認したところ、この家の屋根が写っていて、建っていたことの証明になったという

再建築不可の路地物件が不人気な理由のひとつに採光の問題がある。解体前は薄暗かったという二人の家も、京町家でいうところの虫籠窓(むしこまど)部分を思い切って全面ガラスにしたり、隣接する空き地側に窓をつくることで、路地奥とは思えないほど十分な陽が入ってくる。

内部1階から見上げた虫籠窓部分
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隣接する空き地側に設置した窓。建具のない窓であればDIYしやすいとのこと

\Another idea/

「光の差し込む方向や角度は、住み始めてから気づくことが多く、採光のイメージは素人では難しかったですね。欲を言えば、足元ぐらいの高さに陽を取り込む窓をつくってもよかったかも。そうすれば、足元の植物にも陽が届きやすくなったかな」by熊谷さん

〈原則2〉

DIYでも、頼るべきところは、建築のプロを頼る

しかし、いざふたりで解体作業をはじめると、気がかりな部分が次から次へと出てきた。柱も腐っていて、屋根や基礎にも修繕しなければならないところがある。家の奥の和室の下に1.5メートルほどの深さの地下倉庫があることも判明した。

住宅の構造や安全性、水回りや配線などのインフラにかかわる部分はプロに任せたほうがいいかもしれない。そう考えていたとき、友人に紹介してもらったのが建築士の和田寛司さんだった。

いまではふたりが「和田っち」と呼ぶほどの親しい仲だが、初対面のときのことを、小久保さんはこう振り返る。

構造の補強や電気配線などは専門家に任せる必要がある

小久保さん

当初、知り合いの工務店に工事費を見積もってもらったときに「リノベーションだけで1000万円はかかる」と言われていたんですね。でも、そこまでは出せないなと思っていて、そのことを和田っちに伝えたら「ハーフセルフビルドはどうですか?」と提案してくれたんです。 ハーフセルフビルドは安くできるだけではなくて、施主にとっても納得度が高くなる、というのが和田っちの考え。「やれない部分は僕がやるので、アイデアを含め、やれる部分は施主さんがやったほうがいい」と言ってくれました。

この提案に、小久保さんと熊谷さんは賛同。「自分たちも家づくりを経験したかったし、プロの仕事を学べることがうれしかった」という。

もちろん、和田さんが関わったのは構造や基礎といった建物根幹の部分だけではない。たとえば、「壁や天井を土壁にする」というのも、和田さんの提案だったそう。

小久保さん

別の現場の解体で聚楽土がたくさん出たらしく「それを使って全部土壁にしませんか?」って。その土に漆喰を混ぜた半田仕上げの方法だと、表面の土がポロポロと落ちてきたりしないんですよ。左官職人さんに1度教わって、そのあと4日かけて自分たちで塗りました。

熊谷さん

和田っちに「植物をたくさん育てたい」ってお話をしていたんですけど、この土壁だと室内の湿度も高く保たれるから、その意味でもいいだろうと。おかげで室内でも植物が元気です。

土壁と言えば表面がポロポロ剥がれるというイメージがあるが、漆喰と土の割合を五分五分にした半田仕上げであれば、自然の風合いを残しながらも耐久性が増すのだそう
家全体を包み込み、あたたかい印象を与える土壁。調湿効果に加えて室温の安定にも効果があり、家全体の快適さを維持。100年たつ古民家とは思えないほど冬でも暖かい

\Another idea/

「天井の土壁やその下にある石膏ボードの貼り付けも自分たちでおこなったんですが、DIYで一番大変な作業でした。作業も高所で危ないし、屋根を支えている丸太のサイズに合わせてボードをカットするのも難しかった。プロの大工さんに任せてもいいところだと思います」by小久保さん

「土間にしたい」「猫や植物と暮らしやすい」などの要望や用途は伝えた上で、それを受けてアイデアや作業の進め方を建築士の和田さんが出し、和田さんに指導受けながら自分たちで担った小久保さんと熊谷さん。呼吸がぴったりと合うプロの理解者と出会えたことは、何よりの幸運だろう。

小久保さん

僕たちがやりたいことを尊重してくれたうえ、予算の問題にはとことん寄り添ってくれた。和田っちなくして、この家はできませんでしたね。

専門家に頼まないと難しいことのひとつが建具だそう。ガラスの嵌め込みは、小久保さんも参加しておこなったが、外枠とレール、立て付けの調整は建具屋さんに依頼した
洗面台や壁と一体化したFRP(繊維強化プラスチック)仕上げのバスタブも、和田さんのアイデア。水はけが良くなるよう、随所に斜めの傾きが取り入れられている

一方の和田さんも「小久保さんや熊谷さんのように、ここまでやる方は滅多にいないですし、多分ハーフどころじゃないくらい頑張っていました」と二人を賞賛する。ハーフセルフビルドという言葉以上に行動した二人の労力が、大幅にコストを落とすことにつながった。

〈原則3〉

古材や空き家の廃材を活かすことで、“風格”を出す

もともとの建物を想像できないほどの大掛かりなリノベーションを、建築士の知識や職人さんたちの力を借りながらも自分たちの手でおこなった小久保さんと熊谷さん。この家の大きな魅力は、「ほぼ新築」並みの状態に生まれ変わりながら、長い時間をかけて育ててきたような風合いやあたたかみが感じられるところだ。

その空気感を生み出している理由のひとつは、積極的に古材や廃材、リサイクル品を利用していること。

たとえば、棚類のほとんどを鳶職人が使う足場板で製作。ドアや仕切りなどに使用したガラスは、アートイベントのあとに余ったものを利用した。前述した床下収納があった部分を底上げするのに使用したのも、撤去した屋根の瓦などの廃材だ。

足場板でつくった棚。「奈良のある木材店の足場板がとても安くて。足場板は粘りもあって耐久性が強いし、製材された市販品にはない味が出る」(小久保さん)

小久保さん

廃材をたくさん活用したので、ほんとうにゴミは少なかった。彼女はゴミが出るのを嫌うというか、環境に良くないことを嫌がるんですよ。

熊谷さん

新しいものとかブランドものを買うより、リサイクルショップで見つけたもののほうが好きというか、自分にはしっくりくる。そういう価値観はふたりで共有しているものかもしれませんね。

入り口のドアに取り付けた取っ手の木材は、ウッドデッキで余った古材を使用
ウッドデッキに埋め込んだコンポスト。「できるだけゴミを減らしたくて、家で処理できるものは土に任せます」(熊谷さん)

住宅一軒の解体に伴うゴミの量は、日本人ひとり当たりの一生分のゴミに相当するという説もある。単に魅力的な空間をつくるだけでなく、なるべく廃材を循環させて環境にも心を配る。そうしたふたりの意識が、味わい深い家が生まれた根底にあるのかもしれない。

\Another idea/

「たまたま廃ガラスが手に入ったので、壁ではなくガラスで空間の間仕切りをしたんです。圧迫感のない広がりができたという意味では良かったんですが、壁にしておけば収納もつくりやすかったなと。材料ありきでない選択肢を考えてみることも大事かも」by熊谷

〈原則4〉

素材そのままではなく、ひと手間掛けることで“独自色”を出す

古材や廃材を使いながらも、どこかモダンな印象を与える小久保さんと熊谷さんの家。そこにはDIYをする上で、重要なポイントがあると小久保さんは話す。

小久保さん

廃材も含めて素材をそのまま使うだけだと、のっぺりしたり野暮ったくなる。だから、僕は古材や廃材を使う場合はあえて幾何学模様や三角形などのモダンな図形やパターンにして組んだり、既製品を使う場合も異材と組み合わせるようにしています。そうすることで、単調にならず素材のもつ質感をいい塩梅で引き出せる。

たとえば、入り口からつづくワークスペースと工房がある部分の床も、単にセメントを流し込んだだけではない経年変化の質感があり、味わい深い。

熊谷さん

ここの床はホワイトセメントが乾き切る前に赤土と黄土を重ねて、仕上げにその上から石鹸水を塗ってつるつるの石で磨く「水晶磨き」をしました。ただひたすら磨いたんですけど、とても愛情が湧いてくる作業でした。

水晶磨きの作業を終えた直後の床(左)と現在の床(右)。人の手が加わったことによる風合いがアクセントに。

さらに独特なのが、床の切れ目の部分。奥の部屋の床下収納があった部分を底上げし、段差をつくることでワンフロアの家の中に動きをつくり出しているが、その境目の無造作な感じに、狙ってはできないセンスの良さが表れている。

床の段差の部分に注目。もったりしたホワイトセメントに残る線の模様は、型枠として利用していたビニールの跡。「きれいにしても良かったのですが、あえて跡も残したんです」と小久保さん

また、小久保さんと熊谷さんの家の特徴のひとつが、まるでお店のようなキッチンとカウンターが設えられている点。当初、カフェにする計画があったため、飲食店営業の設備基準に倣ったのだとか。

熊谷さん

カウンターも、土台は自分たちでつくって、左官職人さんにホワイトセメントを塗ってもらい、床と同じように磨いて仕上げました。

ホワイトセメントを磨いたカウンターは使い込まれてきたような質感に

小久保さん

キッチンはコックピット感というか、彼女の手の届く範囲で全部完結するようなサイズ感を意識してつくったかな。

キッチンの棚やタイル張りも自作のもの

\Another idea/

「タイルをネットで買うのってすごく難しいと思いました。ネット通販で注文したキッチンのタイルは、思ったよりサイズが大きくて。サイズ感だけでなく、光沢や色味の濃淡とかもわかりづらいので、取り寄せて実物確認が良いかと! 単品じゃなく集合体になった時にも見え方が変わるので、タイル奥深いです」by熊谷さん

小久保さん

大工さんには、いろんな作業ごとのセオリーがあるけど、それはプロとして効率をよくするためでもある。時間に縛られないのがDIYの良さだし、セオリーによって淘汰されてきた手間をあえて掛けることで、自分たちにしかできない空間になると思います。

丁寧に手仕事の手間を加えたことで、住まい手の愛着が空間に醸し出され、居心地の良さにつながっている。

〈原則5〉

シロウトならではの「規格外」の発想で面白い空間をつくりだす

ものづくりに携わってきたふたりがいちからつくり上げた、初めての家。なかでもユニークなのが、用途とは違う使い方で材料を活用しているところ。

その一例が、キッチンのカウンターの上に吊り下げられた棚。木材だけだとウッディになりすぎると考えた小久保さんは、吊り下げる素材にスチールを使用。でも、じつはこれ、鉄筋の基礎に使う部品なのだそう。値段も安く、「ホームセンターで300円くらいで買える」とのこと。

同じように、植物を吊るしているパイプは、なんとガス管。通常のパイプはピカピカに光っているものが多いが、このガス管はマットな質感。この素材感が気に入り、選んだのだとか。

こうした細かな点も、些細なようでいて実際には印象をがらりと変えてしまう重要な部分。でも、用途とは違う使い方というのは、なかなか思いつけるものではない。そうしたセンスは、どうやって身につければいいのだろう。

小久保さん

センスというか、僕がひねくれているのだと思います(笑)。というのも、DIYのために売られているものを、そのまま使いたくなくて。本来DIYって制限がないなかでものをつくることなのに、DIY用の材料を使ってDIYするって、それはDIYなのか? という。 まず、DIYを「素人の大工仕事」だと考えるのが良くない。大工さんのように仕上げたいなら、大工さんに頼むのが一番いい。DIYはそうではなくて、プロがやらないこと、プロとは違う自由な発想で気ままにつくることに良さがあると思うんです。

さらに素人だからこそ、資材調達するときは、製品やサービスとしてパッケージされる前の建材や材料に目を向けるべきだという。それが低価格でDIYを実現するための、なによりの秘訣なのだそう。

小久保さん

大工さんって、商品になるひとつ前の工程をやっている。そもそも、何をしたいんだっけ? っていう目的を問い直すことで、必要十分なものが安く見つかるんです。たとえば、ドアの取っ手だって、アイアンでつくると高い。けど本来の目的は、ドアを開けるために「手が引っかかるもの」でいいと割り切れば、別の素材や余った材も視野に入ってきますよね。

熊谷さん

どう代用できるかを考えてコストダウンするっていう考えは、料理に似てるよね。お酢が切れたときに、酸味のある近い食材でまかなうみたいに、家づくりも決め過ぎずに、その時の感覚に任せる余白があるといいですよね。

プロではないからこそ、常識にとらわれない面白いアイデアやオリジナリティが生まれる。それがDIYならではの楽しさなのだろう。


エピローグ

最後に、改めて「DIYをする上で大事なことは?」と聞いてみたら「計画を立てすぎないこと」だと返ってきた。

小久保さん

計画を先に立てると、計画どおりに進まないことがストレスになって、嫌になっちゃうでしょう? しかも、ざっくりとした大枠だけを考えて細かいところは決めないでやっていったほうが柔軟に対応できるし、気づいたら自分たちが想像していなかったような結果にたどり着くこともある。

当然、効率よく事は進まないかもしれないし、「失敗したかも」と感じることも出てくるかもしれない。でも、DIYのもうひとつの良さは、気になったら自分で直せること。暮らすうちに違和感が出てきたら、そのときの自分の考えで直していくことができるからだ。

熊谷さん

レイアウトも含めて、最初は「良いアイデアかも」と思ったところが、なんだかしっくりこなくて変えてみたり。

熊谷さんが作図した設計原案のひとつ。施主自身の目線で配置や導線をしっかり想像していることが伝わってくる

\Another idea/

「当初の計画では、カフェ営業を想定していたので、屋根裏以外のすべての空間を土足にしたんです。けど、住居として考えた場合、オール土間だと服も着替えづらいし、小上がりみたいなリラックスできる場をつくっても良かったかな」by熊谷さん

小久保さん

やっぱり大工さんにつくってもらったものは壊しちゃいけないと思うけれど、自分でつくったものは飽きたらまたつくり直して変えてしまえばいい。それができるのが、DIYの醍醐味かも。

熊谷さん

振り返ってみると判断の連続だったね。些細なことにどこまでこだわるか、逆に雑になる自分も知れたり。

小久保さん

本当にそう。DIYは、価値観の責任を建築士や大工に押し付けず、自分たちで背負うものだから。改めて自分や家族の人生観と向き合う良い機会になったと思う。

暮らし始めて、まだ2年。冬の季節もまだ2回しか経験していない。熊谷さんは「まだまだわからないことがあるから、もっと更新していきたいな」と話す。そのときどきの自分たちの暮らし方や思いに合わせて、どんどん変化していく家。10年後、この自由な家は、どんな風景になっているのだろう。

credit:

執筆:岡田芳枝

企画編集:合同会社バンクトゥ 光川貴浩、窪田令亜

撮影:川嶋克

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