空き家に自分らしく住むための物件取得の経緯やリノベーションの手法など、具体的な金額までぶっちゃけトークする「空き家居住学」。今回のテーマは「子育て」です。
中古住宅(ユーズドハウス)を選ぶとき、ひとつ気になるのは子どもとの生活です。間取りは子育てに合っているか、広さは十分か、周辺環境はどうか……考えはじめるとキリがありません。
今回ご紹介するのは、中古住宅を活かし、自分たちらしい住まい方、そして子育てを実践している方々。駐車場が取れない、狭い、などなど、場合によっては子育てにとってデメリットだと言われかねない環境にもかかわらず、家族で魅力的な生活を送っています。
物件との出会い方、DIYやリノベーションで工夫したこと、実際にこれまでの子育てを振り返ってみて、いま感じていること……。中古住宅の活用術や、その魅力をお伝えしていきます。
同じ子育てシリーズの「「住まい方から決められる」中古住宅(ユーズドハウス)での子育て」はこちらからどうぞ
INDEX
西京極駅近で注文住宅をリノベーションし子育てされている高橋さんご一家の場合
今回おうかがいしたのは、現在13歳、10歳、4歳の三姉妹を育てる高橋勝さん・佳奈さんご夫妻。勝さんは建築設計に携わっておられ、注文住宅として建てられた中古住宅(ユーズドハウス)を購入後、自身の設計でリノベーションされました。
これまでこちらのウェブサイトでは、築年数がかなり長い物件を購入して改修、という事例を多く紹介してきたので、比較的珍しい事例と言えるのではないでしょうか。
その背景にある思いや、子育てについてお話をうかがいました。
——この物件について教えてください。
勝さん
2019年に購入しました。パナホームの注文住宅で築年数は14年でした。広さは1階も2階も42㎡。建ぺい率も容積率も最大限でしたね。窓もペアガラスですし、トップライトもあり、床暖房も完備。住宅性能は申し分なく、前所有者さんのこだわりが見えました。さすが注文住宅だと感じました。
勝さん
駅から徒歩2分のため、土地代はなかなかいい値段でした。「法定耐用年数」という観点から木造物件は22年で価値がゼロになりますが、14年経っていたので上物(建物)の価値は600万円(固定資産税評価額)でした。改修費はおよそ500万円程度。設計は自身でおこない、大工工事は付き合いのある工務店さんにお願いしました。
改修費用とは別にDIYもしました。メインは室内の塗装です。しかし塗装するために段差をなくす「パテ塗り」と呼ばれる下地処理の工程は何度やっても凹んでしまい、プロにお願いすべきだったと後悔しました(笑)。
それ以外は洗面所の棚、仕事場や子供部屋の机や棚もDIYしました。材木屋さんから材料を買って、一から組み上げました。私が活動する「ヤマケン」のメンバーに藤田木材さんがいまして、京都府産材を好きな寸法で買うことができるんですね。
カットも注文できるので、いつもお願いしています。が、一般の方の注文を受けておられるか分かりません……ちなみに藤田木材さんと知り合う前は、カットしてくれるコーナンで木材をそろえていました。その場合は京都府産材指定で買えません。
庭は庭師さんに入ってもらいましたね。もともと前庭部分に車が停められるようになっていたんですが、「車を停めない」という判断をすると庭にできるんですよね。
——なんでこの西京極だったんですか?
勝さん
もともと妻の実家に近いという理由から、西京極のマンションに住んでいたんです。
50〜60㎡の2DKで、2010年に結婚してから、長女が小学校3年生、次女が年長、そして三女が妻のお腹の中にいるときまで住んでいました。和室が3室あり、ふすまだけで仕切るタイプだったのですべて取り払ってそれをワンルームにしていました。
「中古住宅は急いでいる人にもいい」
——どうやって現在の物件を見つけたのですか?
佳奈さん
わたしの父が散歩中に偶然見つけたんです(笑)。2人目が生まれたときくらいから、前のマンションが手狭になり、そのときからずっと探していたんです。2年くらい探していましたね。
勝さん
2019年の春にお義父さんが見つけて、すぐに不動産屋さんに連絡して、内覧して、即買いました。2〜3週間で改修の設計をして、2019年の夏には竣工。10月に三女が生まれました。
こんなタイトなスケジュールで進められたのも中古住宅だからこそでしたね。当然ですが新築の注文住宅であれば設計から始まるわけですから時間がかかりますし、仮に建売住宅であっても金額が高いので慎重に時間をかけて選ぶことになっていたでしょう。中古住宅であれば気になるところもリノベーションでなんとかなりますから、中古住宅は急いでいる人にもいいですね。
この物件のオーナーさんはもともと西京極駅近くにご自宅をお持ちで、通学するお子さんのために駅に近い家をつくられたそうです。
——購入はどのようにされましたか?
勝さん
仕事上で取引のある京都中央信用金庫で35年ローンを組み借りることができました。ほとんど土地代でした。
——改修はどうなされましたか?
勝さん
この家は中古の注文住宅であり自分たちではない別の家族のためにつくられた家なので、ゆえにジャストフィットではないんですよね。
前所有者さんは、中学高校生のお子さんとの住まいとして建てられ、幼少の子育てのための家ではありませんでした。部屋割もそうですし、上下の移動も多い。子供が小さいうちはなかなか大変でした。
1階には3室あるのですが、そのうちの1室は事務所として使っています。別の1室は私たちと三女の寝室。もう1室を長女と次女が「耳をすませば」に出てくる汐と雫の部屋みたいにシェアしています。下の子が小学校高学年になったら事務所を外に出さないといけなくなりそうだなと覚悟しています。
——改修のポイントは?
勝さん
この物件は、全体を支える構造的に主要な「躯体(くたい)」と呼ばれる部分にパナソニックの「テクノビーム」という建材を利用した建物で、梁に鉄骨を木材で挟んだ特殊な材料を使っています。新築当時はそれをボードで囲み、木調のビニルクロスが貼られていましたが、仕上げを撤去して構造材を露出することにしました。
建具も床も練り付け材の既製品で本当はあまり好みではないのですが、床暖房が入っているからそのままにしています。
佳奈さん
階段室の壁面を剥がしてガラス張りにしています。
「なるべく居場所をたくさんつくろう」
勝さん
改修の方針としては、「なるべく居場所をたくさんつくろう」というものでした。
2階のリビングは18畳なんですが、もとから割と綺麗だったんですよね。大きいところで言うと、キッチンスペースに天井があったのをなくしたくらいです。
細かいところについては、妻はもともと飲食店で調理をしていたので、心強かったです。キッチンもシステムキッチンをまるごと購入するとすぐに値段が高くなってしまうので、部分部分で購入しています。天板の奥行きは一般的には65センチですが、70センチのものをtoolboxで購入しました。上部のキャビネットは扉だけ新しいものに入れ替えて、上からワックスを塗っています。
アイランド型にした作業台もオリジナルでつくっています。親戚で集まったときにはカウンターにもなりますし、子どもたちがここで宿題をひろげることもできます。子どもが寝返りをしないうちは、ここに寝かせていたこともありました。作業台の下は両側から収納できるようにして、サランラップやレンジなどはここに入れて隠しています。
ちなみに台所の棚は大工さんにつくってもらいました。
佳奈さん
水回りは気になったんですがもともとの設備を使っています。ただ、キッチンはどうしてもと思ったので変えてもらいました。
勝さん
家の外観はいわゆるサイディングであり、新建材という雰囲気が出ていたので、リシンの吹付塗装をしました。ベランダ腰壁にも杉板を貼って、かなり雰囲気を変えました。杉板は自分で塗り替えのメンテナンスをしています。
——中古住宅だからこその利点はありますか?
佳奈さん
おおらかでいられますね。新築だと「あー!傷つけないで!」みたいに気が立ってしまっていたかもしれません。引っ越した時点でもう14年経っているので、傷ついていて当然ですしね。
——お子さんたちにはどう使われていますか?
佳奈さん
結構みんなリビングにいてくれるんですよね。前のマンションのときは個室がなかったです。新しい家に移るということで最初は子どもたちも「部屋があるんだ!」とテンションがあがったんですが、蓋を開けてみたらリビングにいてくれます。一緒の時間が過ごせるので嬉しいですね。
勝さん
リビングに数日荷物を広げっぱなし、ということもありますけどね(笑)。ソファも分割できるので、子どもたちが友だちを連れてきたときによく活用しています。
個室は何かあったときに逃げ込める場所になっているので、そういうのは分担ができていいなと思っています。
——ロフトはどう使っていますか?
佳奈さん
わたしの趣味の部屋になっています。つまみ細工をつくって、ときどき販売もしているのですが、その荷物などがありますね。家族のアルバムなどもしまってあります。
「みんな暮らし方も変わっているのに、フィットしていない家がどんどん建てられているのでは」
——ちなみに、子育てのために車は使われましたか?
佳奈さん
駅も近いですし、車は使わなかったですね。
勝さん
タイムズカーシェアを愛用しています。語り出したら止まらないくらい便利です(笑)。改めて考えても、駐車場のままにしなくてよかったです。
——それはどういうことですか?
勝さん
いわゆる建売住宅でよくあるのは、家の前に駐車場があり、その奥に居間のような空間があるものの、その窓にはずっとカーテンが閉まっていて開けられることがない、というパターンです。
しかもそれがミニ開発であるため、まちなみにそういうお宅が並んでいるわけです。カーテンがずっと閉められているというのは、つまり暮らし方にフィットしていないということ。みんな暮らし方も変わっているのに、フィットしていない家がどんどん建てられているのでは、と疑問に思っています。
そういう意味でも、この家では前庭をつくったことが、心理的な距離をつくり、窓を開けていられるのはいいなと改めて思った、ということです。
——地域のみなさんとつながりはありますか?
勝さん
前庭のおかげで、ありますね。鉢植えではなく、まちに寄与する緑をつくっておくと地域コミュニケーションが取れますね。地域にも緑が好きで力を入れている方がおられるので、仲良くなれます。
佳奈さん
子育てしていると近所付き合いが大事ですよね。うちは引っ越したのがちょうどコロナの時期だったので、接点がなかなか持ちづらかったんですよね。
勝さん
町内会も活発ではなく、町内に新しい人の流入はあるのですが、なかなか町内会には入ってくれないんですよね。なので僕がいつも町内会の何らかの役をやっています(笑)。ただ、子育て世帯にとっては、子供会や地蔵盆など、町内会に入るメリットはいろいろとあると思います。
——中古住宅を活用して、現在までを振り返っていかがですか?
勝さん
京都の条件がいい物件は土地代がとにかく高いですね。どんどんあがっている。ローンさえなんとかなればとも思いますが、親のどちらかの「一馬力」だと難しいなという印象です。
そういう意味でも、上物(建物)の価値が低くなっている優良住宅の活用は子育て世帯にとってはかなり有効ですね。我が家がいい例です。
建築的な視点から言うと、「柱と梁」でつくる在来軸組工法の場合は改修方法がある程度自由になりますね。ワンルームにもしやすいですし。いわゆる日本を代表する工法ですが、「壁」でつくるパネル工法やツーバイ工法だと在来軸組工法よりも自由がききません。日本にはそういう恵まれている文化が足元にあるので、それがちょっと変わるといいように回っていくのではないかと思います。
一方で、木造の住宅が22年で価値が0円になってしまうのは日本だけです。欧米では住宅に手を入れると資産価値があがり、購入したときよりも高く売れるんですよね。インスペクションも建築士の職能の1つになっています。ゆえに家がいい状態で残り、まちの景観も良い状態で維持されるわけです。しかもまちなかにおかしな家が建てられそうになると「やめてくれ」と言える権利がある。日本でもそうなっていくと、100〜200年残る家も増えて行くんじゃないかなと思いますね。
外観を今の自分の価値観に合ったものにすることやお庭にちゃんとこだわること、自分の住まいを好きになり誇りをもって暮らすことが大事かなと思います。
高橋さんご家族の子育て、いかがでしたか?
もちろん高橋勝さんが建築家であり、自身で改修の設計ができるという利点が最大限に影響していることは言うまでもありません。一般的に建築家というと「作品」のように自宅を設計したい人たちだという先入観があるかもしれませんが、そんな「建築家」というイメージをより柔軟にするような働き方、住まい方でもありました。
ともあれ、そういう特殊な要件を抜きにしても、子育て世帯にとっての有効な選択肢を示してくれるような、素敵な中古住宅活用でした。
ここで、もう一家族の場合について見ていきましょう。
路地に面した5軒長屋の1軒を改修して3人のお子さんを育てたKさん一家の場合
プロジェクトメンバーからの紹介で、京都市都市計画局勤務Kさん家族の子育てについて、おたずねしました。
——どんな住宅で子育てをされましたか?
築年数不詳
家賃:月35,000円
改修費:300万(大工さん+DIY)
敷地面積:40㎡、延床面積:80㎡
居住期間:13〜14年間居住後、現在は別の中古住宅に住み替え
独身の頃に借りた借家です。結婚後も住んで3人目の子供が生まれるまで合計13〜14年は過ごしました。路地に面した5軒長屋のうちの1軒で、町内や路地の人との関係も近く、子育てしやすかったです。
築年数は不明、家賃は月35,000円でした。2人目が生まれたときに、約300万円かけてキッチン、居間、トイレなど1階のほぼ全体を改修しました。キッチンは自分サイズに合せて作ったので、引越しと共に持って行きたいほど気に入っていました。また、DIYで床板に柿渋を塗りました。
——そこでどのようにお子さんを育てられましたか?
寝る以外は1階で生活していました。3つにわかれた部屋はふすまや建具で仕切れるようになっていましたが、ふだんはほぼ開けっ放し。1階は空間が1つにつながっていてワンルームのようでしたし、トイレや浴室が近くて目の届くところにあったので、小さい子を育てるには便利だったと思います。
——なぜマンションではなく長屋だったのですか?
幼いころは地で育ったので、それが住まいの基本となっていて、むしろピカピカの新築の家やマンションよりは趣がある「古い家」住みたいと思っていたんです。京都にきたときには、京都らしい町家に住みたいな、と。その前にはアパートに住んでいたのですが、その近くにあった長屋に縁あって住むことになりました。
——中古住宅での子育てで大変だったところ、良かったところについて教えてください。
床下や2階の天井裏が長屋全体でつながっており、よくネズミが出たことと、冬寒いことが大変でした。1階の居間は昼間でも暗かったので、照明をつけていました。改修後は台所と食堂を明るい南側に配置したので、昼間はそこで過ごすことが多かったです。
また、子どもが生まれて仕事に復帰してからは忙しく、なかなか掃除が行き届かず、家の手入れができないことがストレスでした。
よかったこととしては、土壁かつ気密性がなかったので、結露がまったくなかったことですね。
——中古住宅での子育てのために準備していたことはありますか?
台所の位置を大きく変えたことですね。それがよかったです。3人目の出産後は里帰りせず自宅で世話をしていましたが、浴室が狭くベビーバスを置けないかわりに、広くつくった台所のシンクで新生児を入浴させていました。
——その後住み替えなどされましたか?
子どもが3人になり、物も増え、さらに子が大きくなったときのことを考えて物件探しを始め、今の中古住宅を購入しました。鉄骨3階建ての3LDKで築約45年の物件です。メンテナンスは楽になりましたが、3階建てなのでお風呂など水回りは1階、キッチン、居間は2階、寝室は3階となり、階間の移動が負担に感じることがあります。物件はサッシが古く、結露もひどかったので、補助金を活用して複合サッシに入れ替えました。防音性も高まり、夜中に前面道路を通り抜ける車の音や、人の話し声もほとんど聞こえず静かになりました。
屋上があるのでプール遊びをしたり、テントを張って寝たりして楽しんでいます。
「持って行きたいほど気に入っていた」とKさんが語る長屋のキッチン【提供:Kさん】