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【後編】俳優・タレント松本明子さんが語る「実家じまい」のリアルと教訓:どうしたらよかったのか?

大相続時代として話題に上がることも多い「空き家」。それは、決して他人事ではありません。親が元気なうちは考えたくない、でもいつかは必ず向き合わなければならない現実です。
誰にとっても自分事になるこの問題に直面し、解決に向けて奮闘した経験を克明に伝えてくれるのが、『実家じまい終わらせました! ――大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)の著者である、タレントの松本明子さんです。
「電波少年」「DAISUKI!」「TVチャンピオン」をはじめ、現在でもTVで明るい笑顔をよく見る松本さんですが、その一方で、空き家状態になってしまった空き家を20年以上にわたって維持管理し、「いつか」のためにとリフォームも行い、総額約1800万円もかけて「実家じまい」に奔走していました。
今回は、松本さんに改めてその道のりを振り返っていただき、これから実家の問題に直面するであろう私たちへの貴重な教訓をうかがいました。体験した人だからこそのリアルな言葉は、多くの人々の共感を呼んでいます。
 
前編では、空き家にする前のステップにあたる「実家じまい」の経験を具体的に聞いていきましたが、後編では「どうしたらよかったのか?」を改めて整理したいと思います。現在お住まいの自宅を息子さんに引き継ぐためにどんなことをお考えかなど、これからについてもおうかがいしました。

INDEX

どうしたらよかったのか?

松本明子さん(中)。2024年 公益社団法人京都府宅地建物取引業協会主催「空き家にしない、上手な不動産の活用法」にて。左は京都市都市計画局住宅室技術担当部長(当時)上原智子。右は公益社団法人京都府宅地建物取引業協会会長 伊藤良之さんです(京都府宅地建物取引業協会提供)

——こうやっておうかがいすると「こうすればよかったのでは」と改めて思うことは?

松本明子(以下:松本):わたしは本当に素人のまま、「実家をどうしたらいいか?」「どこに相談したらいいか?」悩みながら進めていきました。一言で言うと「情報弱者」だったんですよね。だから、専門家に相談するのが一番だなと思います。

——京都市の場合は相談しやすい窓口があります。

松本:以前、京都市で「実家じまいエピソード」について講演する機会があったのですが、その時に京都市都市計画局の方と、京都府宅地建物取引業協会会長の方と、パネルディスカッションさせてもらったときにおうかがいしました。先進的に進められているなと感じました。

パネルディスカッションの様子(京都府宅地建物取引業協会提供)

松本:市(行政)が入っているとスムーズに進めやすいし安心ですよね。京都は素晴らしい環境だし、若い世代が住みたい、古民家を利活用したいと、求めている人がいます。外国の方もそうですよね。理想的にマッチングできればいいですよね。今はパソコンさえあれば、どこででも仕事もしやすい状況ですしね。

京都市の「空き家相談員」とてもいい支援制度だと思いました。困ったことがあったら些細なことでもいいから相談するのがいいですね。

京都市空き家相談員(https://akiya.city.kyoto.lg.jp/counselor/

——一方で、相続やお金の話は家族でもする必要がありますが、「家族だからこそ」切り出しにくい部分もありますよね。

松本: 本当にそうですね。ギクシャクしてしまったり、おじいちゃん、おばあちゃんが怒っちゃったり、喧嘩になったりすることもあるので、言い出しにくいですよね。

——京都市ではそういうときに家族で話題に出してもらいやすくするために、「どうする空き家?カードゲーム」というカードゲームをつくってみました。

松本:いいですね!話し合いのきっかけになるツールはすごくいいと思います。家族が集まるときをチャンスだとしっかりとらえるのが大事ですね。

「どうする空き家?カードゲーム」(https://akiya.city.kyoto.lg.jp/board-game/

——最近では高校からやってみたいと問い合わせがあって、家庭科の授業等で高校生に取り組んでもらう機会も生まれてきました。「わたしは東京に行くから、この家は多分使うことはないな」とか、なかなか話題にあげづらいこともカードゲームをきっかけにすると話しやすくなるかなと。

松本:本当にそうですね。切り出すときにはネガティブな話ではなく、家族の未来を考えるポジティブな話題として切り出せるといいですよね。「もしこの家を譲るとしたら、どんな人がいいかな?」とか、「お父さん/お母さんがこの家のなかで一番大切にしてるものはどれ?」とかね。

ちょっとずつはじめる

——ちょっとおうかがいしづらいのですが、お兄さんとはご実家についてどういうお話をされていたのですか?

松本:兄はすでにマイホームを建てていましたし、早い段階から「実家のことはまかせる」と言ってもらっていたんですよね。

わたしと兄とは10歳差なんですが、父親が実家を建てたとき、わたしは6歳、兄は16歳でちょうど高校生になったときでした。その後東京の大学に行き、東京で就職も結婚もして、自分たちの家を東京に建てた。そんな兄が、実家にいたのは、実質2〜3年でした。

実家の名義が、私一人の名義であったことは、本当に良かったと思っています。兄妹で揉めることもなく、親から明確に伝えてもらえて助かったなという感想です。

———愛着や思いを背景にした分担をご両親がきっちり整理してくださっていたのですね。

松本:そうですね。両親が元気なうちに、公証役場へ行って、実家含めて遺産相続についてはしっかりと役場に届けてくれていたんです。わたしが30代前半くらいのときですね。

兄は両親の保険の受取人、わたしは実家と分担がありました。わたしは実家でずっと暮らしてきたという感覚があったので、そのあたりを父は考えていたのかもしれません。

——松本さんの場合は、早めに家族で話をされていたので相続はスムーズだったんですね。

松本:その通りです。一方でわたし自身いま振り返ると、ちょっとずつでもいいから家族で片付けをしていたらよかったなとも思いますね。

——なるほど。

松本:わたしの家族も物持ちがいいというか、「全部取っておきたい」「ものは大切に取っておこう」という考え方なんですが、それが大変な結果に結びついてしまったわけですね。

片付け前のご実家の様子(提供:松本明子さん)

——思い入れのあるものをパッと捨てることは、なかなか難しいですよね。

松本:本当に。それがあるから実家自体も「壊す」という選択肢はありませんでした。なんとかかたちを残したい思いで必死でしたね。

取り壊して更地にした方が購入いただける可能性も増えますが、取り壊すにも300〜400万円ものお金がかかるわけですよね。しかも更地にすることで固定資産税も跳ね上がる。だからこそ空き家が増えるんですけどね。

ご実家にあった思い出の品々(提供:松本明子さん)

全国からのリアクション

——京都市でも講演されていたという話もありましたが、松本さんは「実家じまい」のご経験を全国で話されていますよね。

松本:実家じまいに関するトークショーで全国にお邪魔させてもらっています。各地で困っておられる方が本当にたくさんおられるんだな、と実感しています。

——ご著書を出版され、さまざまなメディアにもご登場されましたが、印象に残っている反応や直接届いた声など、記憶にあるものを教えていただけますか?

松本:父の遺言が重くて、お金も時間もかかりましたが、最後は実家が取り壊されることなく、名義こそ変わったけど新しい所有者のもと、今でも香川でかたちとして残っている状態にできた。そのことを知ってもらい、「よくやりきりましたね」と言ってもらえたことが印象に残っていますね。

——ちなみに、ご著書で対談されている空家・空地管理センターの上田さんとはどのように知り合われたのでしょうか?

松本:社会問題を扱うバラエティ番組で空き家が取り上げられたときに、ゲストとしてわたしを呼んでもらいました。その際に上田さんと初めてお会いしていたんです。それで書籍をつくるときにもご相談させてもらいました。

——さまざまなご縁をいただいたのですね。

松本:そうなんです。今年2025年の10月に公開した「ソーゾク」という、まさにそのもののタイトルの映画で、「相続診断士」という役を演じるご縁も頂きました。相続が「争続」にならないように、というメッセージが込められた作品です。大金持ちの家よりも、ごく普通の家庭の方が、相続で揉めるケースが多いそうなんです。我が家もごくごく一般の家庭でしたが、揉めなくて良かったなと(笑)

実家じまいから学ぶ、未来へのメッセージ

——ご自身の体験を通して、今、同じように実家の問題で悩んでいる方々に伝えたいことは何でしょうか。

松本: まずは、とにかく「維持費を甘く見ないで」ということ。そして「自分が思っているほど高くは売れない」という現実を、早く知ることです。そして何より、ご両親が元気なうちに、家族みんなで将来のことを話し合うこと。これが一番大事だと思います。

——今お住まいの実家について息子さんにどうお話していますか?

松本:高校生のうちから「頼むね」と伝えています。おそらく、実感はないと思いますが。もしあなたが結婚して家族でこの家に住むことになったら、私たち親は出ていくからね、と。親の理想でしかないんですけどね。

——引き継ぎのために、松本さん自身が意識していることはありますか?

松本:私自身の「終活」ですね。意識が大きく変わりました。もう高価なものは身につけない。自分がいつかいなくなった時に、息子が処分に困らないように、捨てられてもいいものだけで生活しよう、と(笑)。物欲がなくなりましたね。

——最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

松本: 実家じまいという言葉は、少し寂しく聞こえるかもしれません。でも、それは決して終わりではなく、新しい始まりでもあるんです。父との約束は果たせなかったかもしれないけれど、家は取り壊されることなく、新しいご夫婦が幸せに暮らしてくれている。それで良かったんだと、今は心から思えます。空き家の問題は、本当に大変です。でも、一人で抱え込まず、まずは専門家や行政の窓口に相談してみてください。必ず道は開けるはずです。そして、家族の未来のために、明るい気持ちで一歩を踏み出してほしいなと思います。

——貴重なお話を本当にありがとうございました。

松本明子さんの実家じまい、いかがでしたか?ご著書でも割愛されていたご家族との話や、刊行後にさまざまなメディアや全国をめぐるなかでいただいた声についてのお話をはじめ、実家じまいのある可能性がある方々の今後に向けたヒントにあふれた前後編になりました。

第一歩目はなるべく早く、ネガティブなこととしてよりもポジティブにご家族で話ながら、よりよい実家じまいの参考になれば幸いです。

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企画・取材・編集:榊原充大(株式会社都市機能計画室)/特記なき写真は松本明子さんご提供

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