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【番外編】「空き家あるある」—お金と「空き家あるある」

多くの人にとって関わりのある、あるいは将来かかわらざるを得ない「空き家」。当事者になるまでは、どうしても遠い存在になってしまいがちな「空き家」。そんな「空き家」にかかわる、様々な立場のプロの方々にリアルな「空き家あるある」のお話をしてもらいました。

前編後編では、不動産屋さん、建築士さん、司法書士さん、空き家相談窓口担当者さん、そして土地家屋調査士さんといった職業の方々に「空き家あるある」をおうかがいしてきました。

そして今回は「番外編」として、空き家を考える上で欠かせない「お金」と空き家にまつわる「あるある」を、お金の専門家ともいえる元銀行員にお伺いしました。

INDEX

元銀行員さんに聞く「空き家あるある」

今回ご登場いただくのは、以前、京都の金融機関で勤務され融資のご担当などもされていた、合同会社Dialogueの山口一剛さん。現在ではLuupの西日本事業推進部で京都地域の地域戦略ディレクターもつとめておられます。

「なぜ空き家が減らないのかを自分なりに考えてみたのですが、労力に対するリターンがないため、空き家のまま放置されてしまうのではないかと思います」と語る山口さん。空き家を比較的理想的な条件で販売できる、社会的に意義のあることに貢献できる、そうした経済的・社会的な「リターン」がなければ、空き家は空き家のままなのでは、という率直なご指摘からはじまりました。

「建築費が上がり続けている現在、新築物件を建てることが難しくなってくると、中古物件のリノベーションも選択肢に上がってくるのでは」とも続けます。仮に新築でも、中古物件を購入する場合でも、多くの人が頼るのが「住宅ローン」です。

空き家活用のエンジンのひとつとも言える住宅ローンを司るのが金融機関であると言えます。山口さんの過去の経験をもとに、「空き家あるある」をいくつか教えていただきました。

【コラム】
住宅ローンについて

自宅として中古物件を購入、または購入と改修のための費用を金融機関から借り、元金に利息を上乗せして分割で返済していくことが住宅ローンです。一般的なローンに比べて、長期間かつ低金利であることが住宅ローンの特徴と言えます。

銀行として重要なのは、融資の対象となる物件が「担保」となる物件であること。融資を受ける人や継ぐ人が購入した物件を売ることになったときに、同じような条件で売れる、資産価値があるかどうかが重要です。

1950年に施行された建築基準法やその後の法改正により、建てた当時は正しく建築されていたものの、現在では法令に合っていない状態になってしまっている物件を「既存不適格物件」と言います。中でも、建築基準法上の道路に、敷地が2m以上接道していないなどで、その敷地のままでは、今後、新築することができない「再建築不可物件」については、基本的には住宅ローンを組むことができません。現金で購入することになる代わりに、比較的安価で取引されることもあります。

なお、地元金融機関では、再建築が難しい場合でも「公益財団法人 京都市景観・まちづくりセンター」が発行する「京町家カルテ・京町家プロフィール」を提出できる京町家はローンを組むことができます。

あるある31 「銀行、お客様の声に敏感になりがち」

山口さん「再建築不可物件は基本的にローンが組めませんが、それも2003年に国交省から『完了検査に基づく検査済証のない建築物への融資の抑制について』という通達があったためです。それによって、『違法建築への融資は控えるべき』という規制が浸透しました。当時『違法建築だが、建ぺい率や容積率オーバーが何%までだったらいいのか?2~3%ならいいのか?』と疑問を呈したことがありましたが、当然ながら『だめなものはだめ』という返答でした。

銀行にとって一番怖いのは、『なぜあの物件に融資しているのか?』といった批判です。とりわけ周辺からの声です。逆に言うと、周囲から何も言われないのであれば……という時代もありました。周囲一帯が同時期にミニ開発された中の違反建築物件にローンを組んだことがありました。並びの家も微妙に違反していたので、周辺からの異議もないと判断されたのです。今ではもう難しいですが。」

あるある32 「相続人からの相談(間接的に)受けがち」

山口さん「銀行に直接相続の相談をされることはほとんどないのですが、取引先の知り合いが実家を相続するが、といった話はよく聞きました。『相続した物件に値段もほぼつかないけれど、処分のためのお金はどうしたらよいと思いますか?』という具合です。そもそも引き継ぐ人がいない、という場合もありました。

なんとかお金を工面して解体したとしても、更地になると固定資産税は上がります。最大6倍になる?!と聞くと……。解体の補助金が出るのであればまだ可能性はありますが、なければ『しばらくそのままにしておこうかな』という気になってしまうのも無理はないと、正直に思いました。こうして空き家は増えていくのだと実感しました。」

あるある33 「事業計画、安易に考えがち」

山口さん「私が金融機関の支店長をしていた2010年代のことですが、当時、近くの商店街がかなりのシャッター街になっていました。物件の所有者さんたちはお金を持っていて、困っているわけでもなかったため、わざわざどうにかしようという思いもなく、その結果、空き家が多かったのです。

その後、新たに店舗を始めたい人たちと、すでに事業を続けている人たちが集まる会を主催したのですが、気づくと空き家を活用してお店を始めるという方が増え、今ではかなり活気のあるエリアになっています。会の中には『定年したので、相続した物件でカフェをやりたい。融資してほしい』という方もいました。ただ事業計画を見ると、現実的な数字ではなく、将来的な破綻が目に見えるような内容で……。安易で楽観的に考えてしまいがちな部分もあるので、そこは気をつけてほしいですね。」

あるある34 「合理で割り切れなくなりがち」

山口さん「相続でたとえば300万円の現金を、相続人三人で分けることになるとします。私たちは一人100万円ずつもらえば割り切れると考えますが、実は相続ではそう簡単にはいかず、揉めやすいのです。兄弟の中で誰が一番愛されていたのか。あの人は親の世話を全くしなかった。あの人よりも1円でも多くほしい、などなど……。逆にこれが数億円規模になって、一人一人たくさんもらえるようになったとしても、やはりトラブルになるのです。

加えて不動産が介在すると、さらに混乱の元になります。合理的に進みにくいのが空き家問題です。

包括的に、しっかりと話し合う必要があります。亡くなった後の相続のことは考えていても、認知症を発症した場合に誰がどうするのか。そういうことまでしっかりと考えるべきです。」

あるある35 「相続した「後に」どうしようか考えがち」

山口さん「現場で見ていると、相続手続きが進まずに止まっているところも多かったですね。不動産の相続未登記に限った話ではありません。ある方が亡くなったことが分かると、その方の銀行口座が凍結されるのですが、遺産分割協議がまとまらず、多額の財産が相続されずにそのままになってしまっていました。

私自身も親族が亡くなった際に、相続のトラブルに巻き込まれたことがあります。その親族と一緒に住んでいたという事情もあったので『頼むから遺言を書いておいてほしい』と強く伝えていましたが、蓋を開けてみたら一文字も残されていませんでした。相続人である親戚から『あれがあったはず』『あれはどうなった』と揉めて、職場にまで迷惑をかけてしまいました。

ぜひ前もって準備をしておいてほしいと思います。」

元銀行員からの生々しい「空き家あるある」いかがでしたか?

相続はなるべく早めに動くべきとは言うものの、山口さんはこうも語ります。「遺言書の作成をお願いしようにも、『自分に、早く亡くなれと言うことか!』と受け取られて揉めてしまったり、本人も書いた瞬間に『自分は次の日に亡くなるのではないか?』という怖さがあったり、実際はなかなか一筋縄ではいかないのです…………。」

一方で、山口さんが在籍中、店舗で相続などの相談会を実施していたそうですが、相談会に来場した人が、その場で相談することは多くはなかったそうです。後になって、こっそりと聞きに来られることもあったといいます。

「困っているのであれば、困っているとぜひしっかり伝えてください」

という山口さんの一言に、専門家としてのメッセージを感じました。そしてこれは、今回「空き家あるある」にご協力いただいた専門家のみなさん全員に共通することかもしれません。困っている人ほど困っていないように見える、ともよく言われますが、ぜひ適切なタイミングで適切な方とともに困りごとに向き合い、よりよい暮らしを実現していただきたいと思います。

「空き家あるある」がその一助になっていたら光栄です。

credit:

企画編集・執筆:榊原充大(株式会社都市機能計画室)、望月姫子(Kyoto Dig Home Project)

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