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【後編】相続のリアル:実際、どうでしたか?(空き家改修編)

「空き家」を課題としてではなく、可能性として考えることはできないでしょうか?ウェブサイト「Kyoto Dig Home Project」のなかでも、プロジェクトメンバーの振り返りや空き家に直面する人たちへの取材など、「空き家問題」をアップデートしていくためのコーナーが「UPDATE AKIYA」です。

今回注目するのは、空き家を生み出す大きな要因のひとつ、「相続」です。登場いただくオーナーさんは、生まれも育ちも京都だという高橋さん(仮名)。

就職で東京に出て20代を過ごしますが、30歳のときに京都に戻り物件を譲り受けます。

前編では「どのような経緯で譲り受け、手続きしたのか?」「何に注意すべきだったか?」に、後編では「どのように譲り受けた空き家を改修したのか?」に焦点を当て、「空き家のままにしない」ためのヒントをお届けします。

INDEX

こうして、高橋さんは伯父さんの不動産を遺贈により譲り受けることになります。次の懸念は、伯父さんが住んでいた「別宅」をどう活用するかということ。なかなかきっかけが掴めないなかで、第一歩を踏み出す契機となったのが、2023年11月に開催された「京都空家会議—KYOTO DIG HOME SUMMIT」への参加でした。

高橋さんはその場で「京都市空き家活用・流通支援専門家派遣」の制度を知り、別宅の活用について考える時には、こうした制度を利用したらいいと気づくきっかけをもらったと言います。

京都空家会議—KYOTO DIG HOME SUMMIT(撮影:山崎純敬)

「京都市空き家活用・流通支援専門家派遣」の活用

遺贈を受けた後、登記を見た不動産業者から数多くの「売りませんか?」といったチラシ類が届いたそうです。

高橋さんは、遺贈の手続きが一段落したあと、すぐに京都市にメールをします。

高橋さん

専門家派遣の制度を申し込み、2024年4月に専門家の方に来ていただきました。それまでに伯父の家財などの片付けができていればよかったのですが、どう活用するのかも決まっていないため、どう片付けたらいいのかもわからず…..。夫婦ともに仕事もあり、子どもの面倒も見なければならないし、と考えていたらどうしても片付けなければ!!という気持ちにならなかったんですよね。

専門家として派遣されたのは建築士と京都市地域の空き家相談員として登録された宅地建物取引士。建築士からは、「家族でしっかりと住んでもらう賃貸物件にするには、改修費用がかかりそうだけど、躯体に問題は見られないですね」と、目視で確認した範囲では活用するのは大丈夫というアドバイスをもらいます。

また、空き家相談員の方には、「一般的な一棟貸しではなく、簡単な修繕だけで済ませて、習いごとの教室のように、日中だけ人に貸すようなかたちもあるのでは」というアドバイスをもらいました。

「そういう発想はなかったので、とても有益でした」と高橋さんはそのときのことを語ります。「相談は無料でも、こちらの意に沿わない売却をすすめられるのこともあるのでは?」とも考えたようですが、そんな不安も杞憂におわりました。

「空き家でお野菜を育てたら?」

相談終了後に、専門家のお二人に「今回は、あくまで市の制度で派遣されています。今後われわれ以外の方に、活用の相談してもらっても構いません」と伝えられたため、2024年6月頃、もともと付き合いのあった活用が得意な不動産業者に相談します。

高橋さん

そこで提案を受けたのが「空き家でお野菜を育てたら?」という斬新なアイデアでした。建物を維持するにはお金もかかるため、ピロティのようになっている1階部分は駐車場として貸し出し、家庭菜園、レンタル菜園にしてもいいのでは、と。それなら、採れた野菜で食育するなど、何か共同事業として進められるかもしれない、と。思いがけないアイデアに「さすがだな」と思ったことを覚えています。

最終的には、そのままでも貸すことができそうという声もあったため、お金をかけずに直し、安く貸すという方針を取ります。専門家派遣での「躯体に問題は見られないですね」というアドバイスを思い出し、その選択肢もありなのではと背中を押される気持ちがありました。

「別宅」片付け前(提供:高橋さん)
「別宅」清掃後(提供:高橋さん)

「運」と「縁」と「タイミング」

2025年1月、別宅の活用方法が決まり、本宅のリフォーム時からお世話になっている建築士に相談したところ、運命的な縁が待っていました。相談した3日後に、建築士から「ちょうど借りたい方がいる」という連絡がありました。

その建築士の仕事を手伝っている、50代の女性が単身で借りたいとのことでした。今住んでいるお宅の契約がちょうど更新時期を迎え、この近辺に両親が住んでいるために西院に住みたいというご希望でした。

高橋さん

床がべこべこしていたり、雨漏りしていたりする所だけは直してくださいとのことでした。借主はDIYの経験があるため、最低限の修繕でいいし、お風呂もそのままで構わない、と。お互いの安心のために、契約だけ不動産業者に入ってもらい、1月末から入居してもらうことになりました。

空き家の改修にかかった費用は200万円程度。それに加えて電気工事費が30万円くらい、ガスや分電盤などのインフラの整備などを含めると、改修工事の総額は約300万円でした。

物件は月5万円の家賃、近隣相場から考えるとかなりお安いですが、5年くらいで初期費用を回収できる計画だそうです。1階には駐車場をつくって貸し出す想定です。

高橋さんは振り返ってこう語ります。

高橋さん

悩んでいるとタイミングを逃すなと思いました。別宅はわたしたちが住んでいる本宅の建物と隣接しているので、正直「変な人に入居されたら困る」という思いもあり、貸すのにためらいもありました。ですが、活用に向けて動き出した結果、とても素晴らしい方に入居いただけました。物件活用には運と縁も必要で、さらにタイミングも重要だなと感じました。

ひとりだと堂々巡りになりがち

高橋さんの経験談、いかがでしたか?譲り受けた物件の活用に悩みながらも、高橋さんはひとりで抱え込まず、市役所の方、士業の方などなど、信頼できる人にどんどん相談していき、よりよい解決策を見い出すことができました。

「会話の中から生まれてくるアイデアはある」と高橋さんは振り返ります。自分ひとりだと堂々巡りになりがち。信頼できる相談先を見つけ、早い時期から人に話すことで情報が集まったり、見えていなかった事柄が見えてきたりします。自分の想いをオープンにしていくことが必要なのだなと改めて実感いたしました。

ぜひご自身の参考にしていただけると幸いです。

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企画編集・執筆:京都市都市計画局住宅室住宅政策課/榊原充大(株式会社都市機能計画室)

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