空き家や中古住宅(ユーズドハウス)を上手に活用し、自分らしい住まい方をしている方々を紹介する「空き家居住学」。今回ご紹介するのは、リノベーションのプロである工務店に依頼して中古住宅を生まれ変わらせた事例です。
第二弾では、お母様が晩年は一人で暮らしていたというご実家を受け継いで、母が愛した庭を眺められる温室のような空間と、ライフワークでもある日本画のアトリエのある住まいへとリノベーションしたYさん邸をご紹介。丘陵地の自然豊かな環境を生かしつつ、老後の穏やかな暮らしを見据えたリノベーションを、プロの手とご自身のDIYで叶えたというYさん。その体験談とリノベーションの施工を担当した澤田工務店の中川さんに「理想を叶えるためのプロとの上手な付き合い方のヒント」をうかがいました。
INDEX
きっかけは思い出の詰まった実家への転居
Yさん邸が建つのは、豊かな自然が身近にある世界遺産・仁和寺のすぐ近く。庭には大小さまざまな樹木があり、それぞれ花が咲き、なかには見事な実をつけたシークヮーサーも見られます。ここはかつてYさん自身が育った家でもあり、少し前まではお母様が一人で暮らしていたため、たびたび訪れていた思い出の詰まった住まいです。

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基本情報
家族構成:60代、1人暮らし
居住エリア:右京区
築年数:55年
改修費:約1,500万円
延べ床面積:約100平米
工事期間:約4ヶ月
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Yさんが小学校に上がる頃に建てられたというこのお家。元の作りがしっかりしていたことから、間取りや廊下、階段の位置は変えずに、これから住まうYさんのこだわりを最大限活かした空間づくりが行われました。
台所はナチュラルな木の扉のシステムキッチンに一新。いくつかショールームを見て回り、家具のようなデザインのものを探していたところ、偶然見かけて、一目惚れして決めたのだそう。

2階は間取りや扉はそのままに、プロの手によって屋根裏の断熱と窓の入れ替えを行い、エアコンを設置。古くなった畳や床板は、Yさんのお兄様がホームセンターで調達した木材を使って張り替えたり、壁の漆喰をDIYで塗り替えたりすることで、リノベーション費用を抑えつつも明るい印象に生まれ変わりました。
Yさん
「私は結婚してこの家を出て、長らく宇治に住んでいました。母が亡くなって、兄たちとこの家をどうするかという話をしていたんです。宇治の家は3階建てで階段の上り下りが多くて脚が悪い自分にはちょっとしんどいこともあって、兄たちにここに住めたらありがたいと話したら、長兄も次兄も快諾してくれました。すでに主人を亡くしていたという背景もあり、一人暮らしの妹が宇治より近い実家に住むことは、お互いに少し安心できることだったのかもしれません。」
施主に聞く
耐震診断でリフォームを決断
Yさんがこの家に移り住むことが決まると、お兄様がまず心配したのが建物の耐震性でした。
Yさん
「京都市内に住んでいる兄が、京都市では無料耐震診断や耐震改修工事費の補助といった支援制度があるから、まずはその耐震診断を申し込むといいと言って、申請などの手続きを全部進めてくれたんです」
耐震診断をきっかけに会ったのが、京都市に登録している耐震診断士である澤田工務店の中川さんと社長の澤田さんでした。当初はひとまず耐震診断だけを受けるつもりだったそうですが、すでに築55年ほど経っていることや補助金の令和6年度の申込期限が近づいていたこともあり、耐震診断の後に耐震工事を含めたリフォームも決断することに。
有限会社澤田工務店
中川裕さん
京都の住宅事情や環境特性などを熟知した地元密着型の工務店、澤田工務店で設計を担当。同社は右京区を拠点に20年以上にわたり、設計から大工・左官など熟練の「町の職人さん」たちと連携し、理想のすまいづくりを提案している。京都市の「安すまパートナー」の事業者としてリフォーム相談も担っている。
https://sawada-koumuten.jp
「安(あん)すまパートナー」
中古住宅のすまい探しやリフォームなどに詳しく、安心して相談できる市登録の事業者。
「すまい探し・リフォーム相談会」のほか、「安すまパートナー選定支援システム」を利用した事業者探しも可能。
◎安すまパートナー選定支援システム:https://sentei.miyakoanshinsumai.com/
Yさん
「来てくださったお二人の人柄に安心し、この方たちならお任せできると思ったことも工事を即断した理由ですね。色々な条件が重なったこともあり、先延ばしにしないでこの機会を逃さないで一気にやっておこうと思ったんです」
工務店に聞く
補助金の活用とDIYで工事費を最小限に
リフォームにあたってまず希望されたのは、「冬は家の中でも氷が張ったことがあるくらい寒い」と仰るほど長年の経年劣化で隙間が目立った壁や屋根の断熱工事。さらにYさんからは、趣味の日本画を描くアトリエにするため、和室を掃除の楽な板張りの部屋に変えるほか、植物を置ける大きなガラス窓のある温室のような部屋を作ってほしいという希望がありました。
Yさん
「庭の木や花が見えて土足でも入れる温室のような部屋で朝食をとりたいなと思っていたんです。あとは庭いじりが好きなので、天気が悪かったり日が暮れてもゆっくり植え替えなどの作業ができるのも楽しみですね。狭い空間でも、圧迫感がないようにガラスの扉を入れてもらって抜け感を出すようにお願いしました」

Yさん
「補助金を活用するために急いで耐震工事をする必要があったのですが、今回の耐震工事では、柱のみを残してスケルトンの状態にするという大掛かりなことはせず、壁の補強と屋根の軽量化を提案していただきました。耐震工事は時間もお金がかかるイメージがあったのですが、最低限必要な工事を行っていただいたことで補助金の期限にも間に合って、予算内に納めることができました」
とんとん拍子に工事へと進んだように見えますが、Yさん自身は不安を感じられることはなかったのでしょうか。
Yさん
「耐震や断熱などに合計300万円ほどの補助金がいただけたのでありがたかったですが、年齢も年齢ですしリフォームにお金をかけすぎて残りの暮らしがしんどくなるのは困るなというのが一番の心配でした。そこでコスト面も鑑みてずっと挑戦したかった漆喰塗りを自分でやってみようと思ったんです。壁の漆喰はホームセンターで材料を買ってきて自分たちで塗ったんですよ」
漆喰は、当初、珪藻土漆喰を使う予定だったそうですが、中川さんからスイス漆喰と呼ばれる塗料の良さを教えてもらい変更することに。兄や友人たちにも手伝ってもらいながら仕上げたことで、住まいへの愛着がさらに深まったようです。

行動力を発揮しながら、積極的に家づくりを進めていったYさん。何かアイデアが浮かんだり、心配事があったりすると、担当者である中川さんにこまめにLINEで意見を求めていたとか。
中川さん
「澤田工務店では以前からLINEを使ったコミュニケーションを取り入れていて、写真や参考にしたいサイトを、思いついたときに気軽に送ってもらっています。お客様との打ち合わせの予定を決めることは、昔に比べてずいぶん減りました」
Yさん
「私が『こんな感じにしたい』とお伝えすると、『でしたら、こういうのもありますよ』という感じで、私の好みに近いものを提案してもらえたりアドバイスをもらえたのでとても助かりましたし、信頼してお任せすることができたのでよかったです」

こういった関係を築くことができるのも、地元密着型の工務店の良さではないでしょうか。
Yさん
「工事は終わりましたけれど、今も気になることがあったら気軽にLINEで尋ねたり相談したり頼りにしています(笑)」
中川さん
「今回は分電盤を新しくしたり、コンセントを増設したりと電気関係も一新しました。電気や水まわりのこともすべて把握しているので、お引き渡し後のトラブルにもすぐに対応できるのが地元工務店の強みだと思います」
Yさん
「近くに馴染みの工務店さんがあるのは本当に心強いです」
リノベーションから始まる安心のお付き合い
今回Yさん邸のリフォームを担当した澤田工務店の中川さんによると、Yさん邸の築年数は古いものの、「このまま住もうと思えば住める」という程度の傷みだったのだそう。そこから耐震と断熱工事をするとともに、「今後歳を重ねていったときに、快適に1階だけで過ごせるように」ということを前提にしたリフォームが行われました。
中川さん
「Yさん邸のリフォームでは、断熱リフォームを支援する『窓リノベ』のほかに、昭和56年以前の木造住宅を対象とした支援制度の『「まちの匠・ぷらす」京町家・木造住宅 耐震・防火改修支援事業』も利用しています。しかし残念ながら、事業者によってはそういった補助金の制度を知らなかったり、申請手続きに不慣れで敬遠してしまったりするケースもあります。その点、京都市の安すまパートナーに登録されている事業者であれば、制度の種類や活用方法などにも詳しいという強みがあります」

Yさん
「知人がリフォームの際に業者と揉めていたのを見聞きしていたため業者選びに少し心配もありましたが、私の場合は京都市からの派遣で耐震診断をしてくださっている耐震診断士さんがいる工務店さんにお願いできましたので、安心感や信頼感が強くありました」
かつては大工を中心とする職人集団というイメージの強かった工務店ですが、最近はリフォームの際にデザイン性の高い設計や施主のライフスタイルに沿った提案に力を入れていたり、補助金などの制度に精通し最適なプラン提案からローンの相談まで担っている事業者も増えています。
特に突然のトラブルにも即対応してもらえる地元密着型の工務店とのお付き合いは、工事後の暮らしの安心にもつながっているようです。
工事を終えて、さまざまな工程や作業が「楽しかった」と話すYさんの言葉からは、工務店の職人さんたちとの連携、そして自らの手で思い出深い住まいをよみがえらせたことへの充実感がうかがえました。
家を「建てる」から「住み継ぐ」へと価値観がシフトする今、リノベーションのプロとの出会いは重要な第一歩。今回ご紹介したKさん邸(前編記事)とYさん邸が思い出の詰まった住まいを「自分らしさの詰まった家」へと再生した鍵は、工務店という専門家の存在にありました。
補助制度の賢い活用、工務店との密な連携、そして工事が終わった後も気軽に相談できる信頼関係が、安心で快適な住まいづくりへと繋がっています。
ユーズドハウスの価値を最大限に引き出し、長く快適に住み続けられる住まいを実現するためにも、ぜひ一度リノベーションのプロに相談してみてはいかがでしょうか。