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【前編】京都の空き家で始めた「食の商い」と「暮らし」——齋藤商店・齋藤さんが語る移住、店舗開業、そして日々の工夫

最近注目の店舗が並ぶ仁王門通りと新間之町通りの交差点を北にあがると、印象的な行燈看板とのれんが右手に見えてきます。いわゆる「お惣菜」をテイクアウトできるデリカテッセンであり店内で飲食もできる齋藤商店がそのお店。運営するのは、東京の会社勤めを経て、夫婦で京都の古い町家を借り、改修した齋藤美玲さん。
 
もともと京都にはご夫婦で旅行に来ることも多かったという齋藤さん。東京から京都へ移る決め手のひとつは「食」でした。東山の美術館エリアと繁華街との間にある好立地の物件とどうやってめぐりあったのか、そしてどのような改修をされたのか、京都ならではの食材へのこだわり、DIYでつくり上げた店舗、地域との関わりなどなど。開業に至るまでの経緯と現在の暮らし、これからの展望を聞きました。
 
あらたにお店をはじめる方のみならず、「これからの暮らし方」について考えている方に参考になるお話ばかりです。前後編でお届けする今回のインタビューですが、前編では、齋藤さんの人となりや齋藤商店について、そして「そもそも何からはじまったのか?」という点をくわしく聞いていきます。

INDEX

なぜ東京から京都へ?

——もともと齋藤さんは京都にゆかりがあったのですか?

齋藤美玲さん(以下:齋藤さん)

もともとの生まれは長野県の上田市で、その後ずっと関東暮らしだったので京都との関わりはなかったんです。製菓の専門学校へ行くために東京へ出て、パンづくりを学びました。卒業後は横浜のパン屋さんに8〜9年勤めて、その後レストランを経営する会社に勤めます。50店舗くらい運営している会社だったんですが、そのうち1軒だけ、チョコレート屋さんも運営していたんです。そのチョコレート屋さんをはじめ、いろんな部署に配属になり10年。わたしの20代から30代にあたる20年くらい飲食業界にいました。

——その後に京都に来られるのですか?

齋藤さん

いえ。その後に3カ月ほどですが、ニュージーランドへ語学留学に行きました。パン屋時代に出会って、若い時に結婚した主人を日本に置いて(笑)。留学後は外資系の会社で英語を日常的に使う仕事に10年ほど携わっていました。

齋藤美玲さん

——京都でお店を開こうと思ったきっかけは?

齋藤さん

夫と漠然と「どこかで何かのお店をしたいね」とは言っていたんですよね。勤めて10年という区切りの時期でしたし、体力があるうちにはじめた方がいいだろうという思いはありました。

とりわけ古民家を使って、という憧れもありました。京都には食事をメインによく旅行に来ていて、決まったお店の予約が取れたら京都に行く、というような付き合い方でした。

——住んだことはなかったんですね。

齋藤さん

なかったですね。京都は食材が良く、一度住んでみたいねとは話していました。

京都は東京と比べて、とくに野菜がおいしい。京都に来たときには最終日に大原へ行って、野菜を買うんです。ひとつひとつが安価で品質がよいですね。

東京で同じお金を出しても同じ品質のものは買えません。京都の、その「もともとの食材がおいしい」という利点をいかして、京都でお店をしたいなと思うようになりました。

テイクアウトが主流となる店舗を想定

——齋藤商店はどんなお店なんですか?

齋藤さん

2024年10月19日にオープンしたデリカテッセン(惣菜屋)兼カフェです。「お惣菜だけでなく焼き菓子などもいろいろ出したい」という欲張りな思いを叶えています。長年飲食業界にいましたがお店を自分で持ったことはなく、もとから好きだった料理を仕事にするという初めてのトライアルでした。

齋藤商店店内

店舗に立つのはわたしひとりなので、ワンオペでメニューをたくさん提供することは大変ですが、デリカテッセンだったら用意したものをお出しできるしいいのではないか、と考えていました。ただ、はじめるまでは、店内で食べたい方や一杯飲みたい方もいるだろうなとは思っていたものの、テイクアウトが主流となる店舗を想定していました。

——そうだったのですね。

齋藤さん

オープンしてすぐは特に告知することもなかったので暇でしたが、今では毎月席を予約して下さる方もいらっしゃって、たくさんの方が店内で食事をしてくださるようになっています。そこで現在ではデリカ兼カフェとなっています。

季節を一巡すると人の流れもわかってきました。週3くらいで休みにしていて、そのタイミングで仕込みをしています。寒い1月と、意外だったのですが7月の祇園祭の時期はお客様が少ないですね。今年は酷暑だったこともありますが、暑くなるとお店の前の人通りも激減しました。でも8月はお盆で帰省がはじまったのか、だんだんとお客様が来てくださいます。

——旦那さんがお店に立たれることはありますか?

齋藤さん

夫はSE(システムエンジニア)をしているので、店に立って接客と調理をするのはわたしで、夫は本人曰く「用務員さん的な存在」です。掃除や店舗設備等で何か不具合があれば見てくれますね。そして平日はほぼ毎日私が近所で買い周りをして仕入れをするのですが、主人は週末に中央市場などに仕入れに行ったり、大原へ仕入れに行ったり、補助的に動いてくれます。

——お店で使う食材はどうしていますか?

齋藤さん

お野菜などを仕入れにレンタカーで大原に隔週行っています。また、夏場はご近所にいわゆる「振り売り(ふりうり)」さんが来てくださるので、新鮮な野菜を調達していますね。「ふりうり」とは京都ならではの昔ながらの移動販売のことですが、利用してみるとやっぱり便利です。

ショーケース

——どんなお客さんが多いんですか?

齋藤さん

7割くらいは比較的ご近所にお住まいの方やお仕事されている方ですね。あとはInstagramで知って遠方から来てくださる方もいます。Instagramからテイクアウトの予約をされる方もおられます。テイクアウトのお弁当の常連さんには、メニューがかぶらないように工夫しています。

周辺にはゲストハウスもあるので、国内外問わずさまざまな方が来てくださいます。来店される方が外国の方ばかりという日もありますね。外国人観光客の場合、連泊が多いようで、気に入ってくださると朝食を食べに、毎日来てくださるという場合もあります。

——英語が使えることがメリットになっていますね。

齋藤さん

そうなんです。留学経験は何より役立っているかも。ちなみに、ドリンクメニューには海外からのお客様が朝から飲まれるかなと思ってワインも入れました。実際のところ、海外の方はもちろん、国内のお客様や、ご近所のお母さんが子育ての合間に一息つきに来られた時に飲まれることもありますね。

キッチンスペースで調理をする齋藤さん

実際にお店として使えるのか?

——この物件はどうやって探したのですか?

齋藤さん

京町家が理想でしたが、それ以外も含め、住みながら店舗ができることを第一条件に、場所はとくにこだわらず、不動産屋さんに情報をもらいながら、1年程ひたすら探していました。京都に旅行に来た時に、気になる物件を管理している不動産屋さんの看板を見て電話をかけたりもしましたが、居住兼飲食店OKという物件がなかなか見つからなかったので思ったより時間がかかりました。

もともとの物件(提供:齋藤さん)

また、京町家だったら何か京都市の補助金が使えるのではないかと思い、色々調べていた時に「空き家活用・流通支援専門家派遣制度」も知りました。実は京都の物件探しに協力いただいていた不動産屋さんも、たまたま京都市の空き家対策に協力されている「京都市地域の空き家相談員」のおひとりでした。

——専門家にうまく協力をお願いしていたのですね。

齋藤さん

不動産屋さん経由でこの物件に出会うのですが、正直に言って状態はかなり悪かったです。実際にお店として使えるのか?あるいは、どういう改修ができるか?そういうことが気になったので、京都市の制度である「空き家活用・流通支援専門家派遣制度」もお願いしました。申し込みをしたときに対応されたのが、Kyoto Dig Home Projectのメンバーでもある望月さんでした。

当時の資料(撮影:望月)

空き家対策担当:望月姫子(以下:望月)

専門家派遣制度は建物の所有者さん側の依頼が大半です。「借り手」の方からの依頼は、正直珍しいです。齋藤さんの場合は空き家相談員さんに相談されていて、具体的に活用を見据えて専門家に聞いてみたいという要望をお持ちで、オーナーさんの同意も得られていたので調整をしました。

そこでご協力いただいたのが、店舗の設計にも長けた建築士さんであるアトリエアッシュの矢田先生。かなり意気投合されたと聞いています。

齋藤さん

そうでしたね。夫の方が特に(笑)。

——オーナーさんはどんな方ですか?

齋藤さん

不動産家さん経由でオーナーさんとやりとりしていて、実は直接お会いしたことはないんです。オーナーさんにとって思い入れがあるから手放したくないという物件でした。賃貸なのですが、当初の状態などを踏まえて相場よりは安くお借りできていると思います。

——専門家派遣はどのように進みましたか?

齋藤さん

矢田さんにこの物件(現地)に来ていただいて、やりたいと思っている業態について、そして2階に住みたいと思っていることを伝えました。建築についてはよくわからなかったので、この物件が「どこまで、何を、どうできるのか?概算でも、いくらぐらいかかるのか?」を知りたかったんですね。

望月

矢田先生からは、大文字が見える2階部分にテラス席をつくって2階も店舗にしてもいいのでは、というアイデアもありましたね。正確な改修費は実際に見積りを取る必要がありますが、改修するのに必要な概算金額も伝えられていたように覚えています。

大文字が見える2階ベランダからの景色

齋藤さん

1階は3間あったんですが、店舗仕様にするにあたって壁はどこまで抜けるか、そしてインフラの相談などもしました。

矢田さんは京町家を事務所として借りていらしたので、ご意見のひとつひとつがリアルで、役に立つことばかりでした。夏はとても暑くなるので、2階の屋根の断熱は絶対必要!!など、実体験をともなうアドバイスでした(笑)。

賃貸当初の状態。現在のイートインスペースから坪庭の方を臨む(提供:齋藤さん)

齋藤さんにお話をうかがっているときに感じるのは、綿密な下調べの重要さ、そして専門家を上手に活用することの堅実さです。ご夫婦で協力して、ときには自ら手を動かし、ときには人に頼ることで、この魅力的な物件にたどり着いたのだなと、聞いている側として物件との出会いに「納得感」を感じるほどでした。

後編では、実際にどんな改修をしたのか。そしてお店をしていることでまちとどんな関わり方ができているのか。そして今後の展望についてうかがっていきます。

credit:

企画編集:榊原充大(都市機能計画室)、望月姫子(京都市空き家対策担当)、撮影:川嶋克(特記なきもの)

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